第85話

「それでは、大変長らくお待たせしました!

 花火大会開始のカウントダウンをしたいと思います!

 5!4!3!2!1!スタート!」


ドドドドンッ!!


立て続けに花火が何発も上がった。

それと同時に、会場から歓声が沸き上がる。


「わあっ、凄い!」


瞳を輝かせながら、白石は夜空に打ち上がる花火を見ている。


「凄いね!

 こんなに近くで花火を見たの初めて!」


左右の掌を口の近くで合わせている。


「音も凄いね!

 おっきい太鼓を叩いてるみたい!」


いつものクールな白石は何処へやら。

言葉通り、「無邪気」にはしゃいでいる。


「あ、ほら涼ちゃん、今の花火見た?

 ハートの形してたね!」


白石の声が楽しそうで。

いつもと違う白石を見れたのが嬉しくて。

『これが本来の白石なんかな?』

そんな事を思ったりもして。


そんな白石に見とれていた。

花火よりも、白石をずっと見ていたいと思った。


花よりも輝く君の顔を、真正面から見れたらいいのに。

横顔を見るのが精一杯だった。


「涼ちゃん、あたしの顔に何か付いてる?」


私の視線に気付いた白石が、私の顔を見る。


「いや、何も付いてないよ」


笑いながら答える。


「花火つまんない?」


「そんな事ないよ。

 楽しいし、綺麗だな」


花火の音が大きくて、耳の近くで話さないと上手く聞き取れない。


「ちゃんと花火見なきゃ勿体無いよ?」


「ん~、それもそうなんだけどさ」


「だけど?」


白石の耳元に更に近付く。



「可愛い白石を見てたいと思ったから」



ど~んと大きな花火が上がった。

空が赤に、青にと染まって消える。

私は白石の顔が、赤く染まったのを見逃さなかった。


自分でも、なかなかどうして似合わない事を言ったなと思った。

けど、素直に言いたくなった。


普段の白石が可愛くない訳じゃない。

今、この瞬間の白石を可愛く思い、伝えずにはいられなかった。


顔を赤くしたまま、白石は驚いた表情もそのままに、私を見つめている。

そんな白石の頭を優しく撫でた。


「普段とは違う白石を見れて、何だかすげ~嬉しいんだ」

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