第81話

もっと気のきいた事を言えたらいいのに。

他に言葉が思いつかなかった。

ただただ、目の前にいる白石に見とれていた。

そして、高鳴る胸。


「そろそろいい時間だし、姉ちゃん達は先にお祭りに行ったら?

 あたしはお母さんと花音と一緒に行く~」


「あ、ああ、そうだな。

 白石、行こうか」


白石は小さく頷く。


家を出ると、生ぬるい風がやんわりと吹いていた。

空を見上げれば、とんぼが飛んでいた。


祭りの会場までは、歩いて20分くらいのところだ。

昼間よりも大分気温も下がり、暑さもやわらいでいた。

少々暑いが、耐えられない程ではない。


白石と並んで歩く。

下駄がカランコロンと、心地よい音を奏でている。

ちらりと白石を見ると、まだ少し恥ずかしそうにしていた。


「普段は制服姿しか見てないから、浴衣姿は新鮮だな」


何気なく言葉を発してみると、白石はこちらに視線を向けた。


「上手い事は言えないけどさ、本当に綺麗だよ」


誰にも見せたくないくらいに。

独り占め出来たら…なんて、私は何を考えているのだろう。


「…ありがと」


頬を赤く染め、軽く俯く白石。

俯いたせいで見えたうなじは、誰が見ても唾を飲む程だと思う。

色気が凄い。


「…涼ちゃんも浴衣着れば良かったのに」


「私は浴衣持ってないんだよ。

 なくはないんだけど、背が伸びたから丈が合わないんだ」


「涼ちゃんの浴衣姿、見たかったなあ」


やや垂れ目の瞳。

やわらかく微笑むだけで、絵になるようで。

目を奪われまくりだ。

瞳をそらせずにいる。


祭りの会場に着く。

夕方なのに、まだまだ人は多い。


「白石、何か食いたいのある?」


「かき氷食べたいな」


「じゃあ、あそこの店で買おっか」


かき氷の出店に向かって歩くも、人が多くて上手く歩けない。

と、白石が人にぶつかってよろけた。

咄嗟に支える。


「大丈夫?」


「うん、大丈夫」


「…ほれ」


そっと左手を差し出す。

その手を白石は見つめる。


「迷子になったら大変だし、下駄は履き慣れてないだろ?

 だから、手を繋いどきな」

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