第79話

「私変わったかな?」


「そうだなあ、雰囲気がやわらかくなったかなあ。

 なんだろ、上手く言えないけど」


変わったと言われるとは思わなかった。


「悪い方に変わってる訳じゃないんだからさ。

 接し方も、前よりフランクになったかな」


白石と関わるようになったから、変わったのだろうか。

なかなかどうして、自分では気付けない訳で。


「で、改めて聞くけど、白石ちゃんの事は好きなの?」


改めて聞かれてもなあ。


「さっき言った通りだって」


「生徒だとか、教師だとか、そういう立場を抜きにして、1人の人間として、白石ちゃんの事は好き?」


そう言われてしまうと。

そうだな、私は白石の事…。


「さて、どうだろうね」


「もう、はぐらかさないでよ。

 こうやって涼ちゃんと恋ばな出来るの、レアなんだからもっとあれこれ話したいのに~」


「これって恋ばななんかあ?」


話に夢中になっていた為、缶ビールの存在を忘れていた。

テーブルに置かれた缶ビールを取り、勢いよく飲んだ。

先程より些か温くなっている。


「若くて可愛くて美人な彼女かあ、いいじゃない」


「ぶふほおっ!!!」


飲んでいたビールを、元気よく吹き出してしまった。


「あらやだ、涼ちゃん、ビール勿体無いよ」


「いっ、いきなり変な事言うなよ!」


口元から垂れているビールを拭いもせず、里美に噛みつくも、里美はにこやかな表情を崩さない。


「涼ちゃん、顔真っ赤だよ?

 可愛くて美人な彼女の事を思い出しちゃった?」


「何言ってんだよ!」


慌てふためく私を見て、里美はけらけらと笑い出す。


「涼ちゃん可愛い~。

 キュンキュンさせないでよ~」


「させてないから!」


完全に里美のペースになってしまった。

体勢を立て直したいが、まだ動揺を抑える事が出来ない。


「ねえ、涼ちゃん。

 そういう反応を見せるって事はさ、それだけ白石ちゃんの事が好きって事だよ。

 どうでもいい相手だったら、そんなに取り乱したりしないでしょ?」


里美はにっこりと微笑む。


「涼ちゃんが自分の気持ちに気付いて、自分の気持ちに素直になったら、きっと誰が1番大切なのか解るんじゃない?

 理由をこじつけないでいいんだよ」

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