第75話

「涼、遊ぼう!」


花音ちゃんが先生に訴えかける。


「花音は元気だなあ。

 てか、いい加減『涼たん』とかって呼んでくれんか?」


「涼は涼でしょ?」


きょとんとした顔で、花音ちゃんは答えた。

それに吹き出す先生。


「そうだな。

 花音には敵わんなあ」


そう言って、また花音ちゃんの頭を撫でる。


「姉ちゃん、祭りはまだ行かないでしょ?

 花音、ビニールプールに入れるから。

 今お母さんが準備してくれてる」


「まじか、手伝わなきゃじゃん。

 茉莉、花音着替えさせとけ。

 白石はのんびりしてな」


立ち上がった先生は、あたしの頭を撫でると、玄関の方に行ってしまった。

撫でられているところを、茉莉さんに見られた事が、何だか恥ずかしい。


「何か、姉ちゃん男らしくなったなあ。

 てか、何か雰囲気がやわらかくなったような」


「そうなんですか?」


「うん。

 前はもうちょい棘があった感じがしたけど…。

 あ、そうか、歳のせいかな?」


そう言って、茉莉さんは笑う。

あんなに優しい人に、棘があったなんて。

なかなか想像しにくい。


「よし、花音お着替えしようか!」


大きな鞄から、子供用の水着を取り出すと、花音ちゃんの服を脱がし始めた。

あっという間に水着に着替えさせる。


「茉莉~、プールの準備出来たわよ~」


庭の方を見ると、たっぷりと水を張ったビニールプールが用意されていた。

それを見つけた花音ちゃんは、溢れんばかりの笑顔を浮かべる。


「雪乃ちゃんはプールに入らないの?」


不意に花音ちゃんに声を掛けられる。


「あたしは入れないから、花音ちゃんがあたしの分まで楽しんで」


笑いながら答えると、花音ちゃんは大きく首を立てに振った。


「花音、おいで~」


先生の声を聞くと、縁側を下りてプールの方へ向かった。


「冷た~い!」


プールに入ると、入れたての水の冷たさに声を上げる花音ちゃんだったが、すぐにバシャバシャと水で遊び始めた。

花音ちゃんの楽しそうな声が響く。


先生は何処から持ってきたのか、小さな水鉄砲で花音ちゃんを撃つ。

それが楽しいのか、花音ちゃんは更に大きな声ではしゃいだ。

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