第73話

「そうなんだ?

 まあでも、焦って見つけるよりは、じっくり時間を掛けて見つけるのもありだもんね。

 その内ひょっこり見つかったりするかも。

 必ずしも、高校生の内に人生の道を見つけなくちゃいけない訳じゃないし。

 大学だって、大人になってからでもいけるもんね」


否定をしないでくれた事が、とても嬉しかった。

普通なら「そんな事では駄目よ。もっと真面目に考えなさい」と言われそうだが。

こんな風に言ってくれる人もいるんだな。


「あたしの甘い考えを、否定しないんですか?」


「何で否定しなきゃいけないの?

 考えは人それぞれよ。

 それに雪乃ちゃんは、全く考えていない訳じゃない。

 ちゃんと考えていると思うわ。

 …なんて、偉そうな事を言っちゃってごめんなさいね」


「謝らないで下さい。

 お母様が謝る事なんて何もないです。

 むしろ、そういう風に仰って下さった事が、凄く嬉しかったです」


そう、嬉しかった。


「そう?

 そう言ってもらえるなら良かったわ」


やわらかい笑顔を浮かべる。

先生のお母さんだからか、優しさが溢れているように思う。


「短い間だけど、のんびりしていってね。

 大したお構いは出来ないかもだけど、自分のお家だと思って過ごしてちょうだい」


「ありがとうございます」


少なくとも、あたしの家よりは全然居心地がいい。

人がいる空間。

優しさがある空間。

それらに包まれながら過ごす事があまりない為、少々戸惑うかもしれないけど。


と、インターホンが鳴った。

お母さんは立ち上がると、「ちょっと待っててね」と言って、玄関のほうに行ってしまった。

宅配便だろうか。


先生をちらりと見てみる。

何とも心地よさそうな顔をしながら、すやすやと眠っている。

余程疲れていたのかな。


こちらに近付いてくる足音。

今度はそちらに目を向けてみる。

程なくして、若い女性が子供と手を繋いでやって来た。


「いらっしゃい!」


屈託のない笑顔を向けられた。

誰だろうか。


「お、お邪魔しております」


上手く笑えているだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る