第72話

「とりあえず、これからどうすっか。

 この辺は特に見る所もないしなあ。

 白石は行きたい所はあるか?」


煙草を吸いながら、先生はあたしに尋ねる。


「ん~、この辺の事解らないから、何とも言えないかな」


「それもそうだよな。

 もうちょいしたら、祭りに行ってみるか。

 祭りの会場をぷらぷらしてたら、花火の時間になるだろうし。

 暑いけど、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だと思う」


「じゃあ、ちょっと休憩してから行こう」


煙草の火を消すと、立ち上がった先生は縁側の傍まで行き、畳の上に寝転んだ。


「涼、お客さんの前で寝転ばないの」


先生のお母さんが声を掛けるも。


「寝転がりたいからいいだろ~」


のんびりとした声で返答する先生。


ごろごろしていると、その内寝息が聞こえてきた。

どうやら眠ってしまったようだ。


「ごめんなさいね、この子は昔からマイペースな子だから」


苦笑いを浮かべるお母さん。


「朝も早かったし、ずっと運転してましたし、お疲れなんですよ」


あたしは特に気にはならなかった。

むしろ、体を休めてほしいと思っていたし。


「この子、ちゃんと仕事してる?」


「してると思います。

 生徒からも人気で、ファンも多いんですよ。

 格好いいから、人気なんです」


髪を切ってからの先生の人気は凄い。

全学年にファンがいるし、他の先生の間でも人気だとか。


「この子がこんなに髪を短くしたのは、かなり久し振りじゃないかしら。

 大学生くらいから、少しずつ伸ばしたりしてたけど。

 何かあったのかしら」


彼氏と別れたから髪を切ったとか?

先生はそんなベタな事はしないか。


それにしても。

先生とお母さんって、あんまり…いや、凄く似てないような。

顔のパーツを見てみても、似てるところがないような。

…あたしの気のせいだろうか。


「雪乃ちゃんは高3よね。

 就職するの?

 それとも大学に進むの?」


「…お恥ずかしい話なのですが、まだ全然決めてないんです。

 やりたい事がみつからなくて」


そう、やりたい事、興味がある事がないのだ。

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