第70話

高速を下り、一般道を走る。

景色はのどかで、心なしか空の青さが濃いように思える。

空気がいいせいだろうか。


山を生で見るなんていつぶりだろう。

海もちらちらと見え隠れ。

あちらこちらに自然が溢れている。


先生の携帯が鳴った。


「あ、電話だ」


車を路肩に停め、ハザードをつける。

鞄から携帯を取り出した先生は電話に出た。


「もしもし。

 うん。

 とりあえず、飯食ってから行くよ。

 気を遣わんで大丈夫だって。

 じゃあ、後でね」


通話を終了し、携帯を鞄に戻すと、車を走らせた。


「母さんから電話だった。

 昼飯は家で食べるかって聞かれたんだけど、気を遣わないで大丈夫だよって言っといた。

 あ、ちょうどそこにファミレスがあるから、そこで食ってくか」


お昼を少し過ぎていたけど、店内は混んでいた。

家族連れが目立っており、小さな子供の笑い声が聞こえる。


店員にテーブル席に案内され、メニューを眺める。

料理を注文すると、先生が口を開く。


「緊張してる?」


「うん、結構してる…かな」


緊張しまくりで、頭の中では挨拶の練習やシミュレーションを繰り返してばかりだった。


「そんなに緊張せんでも大丈夫だよ。

 固くならんで大丈夫だって」


先生は軽く笑ってみせる。


「先生のお母さんってどんな感じ?」


「そだな~、明るくて元気な人かなあ。

 誰に対しても優しいかな」


「涼ちゃんの優しいところは、お母さん似なのかな」


「私は優しくないって」


苦笑いを浮かべる先生。

いやいや、十分過ぎるくらい優しいよ。


「飯食い終わったら、そのまま実家に向かうね」


「ん、解った。

 あたし、ちゃんと挨拶とか出来るかな」


「私にちゃんと挨拶してくれるんだし、そんなに心配しなくても平気だって」


「どうかなあ」


不安が溢れまくりだ。

いや、不安要素しかないのだけれど。


「いつもの白石で大丈夫だよ」


先生のなつっこい笑顔が好きだ。

屈託のないっていうのは、先生に当てはまる言葉かも。


食事を済ませ、会計を済ませると、先生は出入口に設置されていた灰皿を見つけ、そこで一服。

そして、車に乗り込み、いよいよ先生の実家へ。

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