第64話

雪ちゃんは愛情を知らないと言っていた。

愛されたい、愛したいとも。

ご両親があんな状態になってしまった事もあり、なおのこと愛情に飢えているようにも見えていた。

それを口にする事はなかったけど。


「先生と一緒にいると…落ち着く。

 何て言うのかな…安らぐって言うのかな」


ずっと探していた、雪ちゃんの居場所。

アタシではあげる事は出来ない、安らげる場所。


「先生は…優しくて…温かいって思った」


その優しさに触れて、雪ちゃんの凍てついていた心が、少し溶けたのだろうか。

雪ちゃんは穏やかな表情を浮かべている。

そんな横顔を、アタシはやんわりとした表情で見つめた。


「…あたしの顔、変?」


「違うよ~、恋する乙女の顔をしてるな~って」


その横顔は、とても綺麗だった。


「あたし、自分から誰かを好きになった事がないから、戸惑う事が多くて。

 どうしたらいいのか、よく解らないって言うか」


どうしよう、雪ちゃんすっごい可愛い。

頭を撫でてあげたくなる。


「雪ちゃん、佐藤先生と知り合ってから変わったね」


素直な感想を口にしてみる。


「…変わったかな?」


「うん、変わったよ。

 こんなに表情が豊かになったのもびっくりだし。

 それにちょっと見ない内に、すっごく綺麗になったと思う」


恋は乙女をここまで変えてしまうのか。

恐るべし。


「べ、別に綺麗じゃないしっ」


「じゃあ、可愛い」


にっこりと笑って言ってみると、雪ちゃんは照れまくった。

そんな反応さえ、可愛くて仕方がない。

耐えきれなくなり、アタシは雪ちゃんに抱き付いた。


「わっ、ちょっと、希美どしたのっ!?」


「だって~っ、雪ちゃんすっごい可愛いんだもん!

 あ~も~っ、たまらんです!」


むぎゅ~っと抱き付いてみたものの、雪ちゃんは嫌がる素振りは見せない。

相当照れくさいようだ。


「雪ちゃん」


雪ちゃんと視線を合わせる。


「アタシは雪ちゃんの事、応援するからね。

 先生はファンが多いし、大変かもしれないけど」


雪ちゃんは負けず嫌いだから、きっと根性を見せるだろうな。


「雪ちゃんには、きっと先生が必要だと思う。

 だから、先生と付き合えるといいね」

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