第63話

頻繁に逢っているのだろうか。


「お盆に…その人に逢うんだ」


嬉しそうに、恥ずかしそうに、言葉を1つ1つ丁寧に述べていく。


「そうなんだ。

 写真とかないの?」


「写真はないけど…希美も知ってる人」


アタシの知ってる人とな?

誰だろう、すぐに思い浮かぶ顔はない。


「アタシ、逢った事ある?」


「うん、あるよ」


「誰だろう…思い浮かばないよ」


雪ちゃんは、言おうか言わないか、決めかねているようだ。

右手の人差し指で、口唇を隠す。


暫くすると。


「ひ、退かない?」


「ん?」


「好きな人の事を、話して退かれないか心配で」


一体どんな人なんだろう。

…まさか、不倫でもしているんだろうか。


「退かない…と思う、かな」


アタシの言葉を聞くと、雪ちゃんは両手を膝の上に乗せ、軽く背筋を伸ばした。



「あたし、先生の事が…好きかも」



先生?


「先生って?」


まさか。

まさか!?


「相談員の…佐藤先生…」


まさかだった!?

そりゃあ確かにイケメンだし、その辺の男の人よりも素敵だけども!


「まじでっ!?」


「まじ…です」


より一層恥ずかしそうに、それでいて気まずそうにしている。

この反応は…まじだ。


「確かに佐藤先生は格好いいもんなあ。

 アタシもこの前逢った時、ドキドキしちゃったけど」


「…女の人、好きになっちゃうのは、やっぱりおかしいのかな」


おかしいか、おかしくないかは解らない。

今のご時世、性別を越えた恋愛はたくさんあるし。


けど、雪ちゃんは本気で佐藤先生の事が好きみたいだ。

『恋する乙女』

その言葉がとても似合う。


「アタシは雪ちゃんが男の人を好きになっても、女の人を好きになっても、あんまり気にしないかなあ」


雪ちゃんは、アタシの言葉に安堵したようだ。


「あたし…自分でもびっくりしてて…。

 好きになっていく自分がいて…」


言葉を噛み締めながら話していく。


「今まで付き合ってきた人にはないもの、先生は持ってた。

 あたしの知らない愛情とか、優しさとかを、先生は持ってて、それをあたしに注いでくれるのが嬉しくて…」

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