第60話

「涼ちゃんも海で泳ぐ?」


「どうだろ?

 一応水着は持ってくかな。

 てか、10代の子の水着姿の横に、20代後半が並んじゃいけないような…」


「何で?」


「若者と非若者が並ぶのは、いたたまれない気がする」


また歳の話になる。

先生は年齢に敏感なお年頃なのかな。


「あたしは気にしないし、周りも気にしないと思うけどな」


「気にしすぎてもよろしくはないんだがな。

 ちなみに2泊3日の予定だから、着替えとかちゃんと用意するんだぞ」


何だかわくわくしてきた。

早くお盆になればいいのに。


「涼ちゃん」


「ん?」


「…ありがと」


先生はにこっと笑う。


「どういたしまして。

 よし、じゃあ飯食うか」


煙草を吸い終わった先生は、あたしの左隣に座った。

仄かに煙草の香りが漂う。


買ってきたおにぎりの封を切り、元気よく食べる先生。

あたしはサンドイッチをゆっくり食べ始める。


テレビではレジャー特集が流れていた。

カップルが嬉しそうにインタビューを受けている。


「世のカップル様は、幸せそうな顔をしておりますなあ」


先生はそう言うと、チャンネルを変えた。

あたしはカップルじゃないけど、今なら幸せそうな顔が出来るかも。

だって、楽しい事が1度にたくさん味わえるのだから。


味気ない夏休みが、先生の言葉で彩られていく。

モノクロだったあたしの生活が、少しずつ変わり始めている。


あたしも変わる事が出来るだろうか。

少しでも、何かを変える事は出来るだろうか。


先生と一緒にいたら、変わっていけるような気がする。

現に今、変わり始めているのだから。


貴女に出逢わなければ、あたしは色を失くしたままだっただろう。

貴女に出逢ってからの日々は、輝きを増すばかりだ。


貴女は不思議な人。

瞳をそらせなくさせる。


貴女と過ごせる日々を、大切にしたい。

そう思った。

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