第59話

「花火大会と祭りか」


先生は煙草を咥えながら、腕を組み、何かを考え出した。

何を考えているんだろう。


「私さ、お盆に実家に帰るんだけどさ」


「うん」


そっか、帰省しちゃうのか。

じゃあ、その間は逢えないのか。


「一緒に実家に行くか?」


え?

先生の実家に一緒に?


「え、えっ?」


驚きを隠せない。

予想を遥かに裏切る展開だ。


「お盆に花火大会と祭りがあるんよ。

 こっちで駄目だったなら、私の地元の花火大会と祭りに行けばいいじゃん」


「いや、それは凄く嬉しいけど…。

 いきなり何処の馬の骨かも解らない人が、家にお邪魔したらびっくりするし、迷惑になるよ…」


それに初対面の人と、上手く接せられる自信はない。


「うちはそういうの、気にしないから平気だよ。

 まあ、あくまで白石さえ良ければの話だけどさ。

 あ、海も行けるし泳げるぞ?

 江ノ島とか、鎌倉とかみたいに人も多くないし、のんびり遊べるんじゃないか?」


花火も見れて、お祭りも行けて、海で泳げる。

何より、先生と一緒にいれる。

でも、やっぱり迷惑になるような…。


先生のプライベートに、あたしがずけずけと足を踏み入れていいのだろうか。

…いや、引っ越しを手伝ってる時点で、足を踏み込んじゃってはいるけど。


「無理にとは言わんよ。

 他のお礼を考えるかね」


どうしよう。

これはかなり魅力的なチャンスだ。

花火、お祭り、海、先生。

一石四鳥じゃないか。


けど、こんなコミュ障のあたしが、知らない人の家にお邪魔するのは、なかなかハードルが高い。

上手く喋れるだろうか、笑えるだろうか。


考え出したらキリがない。

次から次へと、いろんな事が脳裏に浮かぶ。


「白石?」


先生の呼び掛けに答えもせず、あたしは頭をフル稼働させる。

目蓋を閉じ、腕を組み、考えに考えまくる。

そして。


「行く」


結果的に、一石四鳥を選んだのだった。


「お、まじか。

 じゃあ、後で実家に連絡入れなきゃな。

 ちなみにすっげ~田舎だからな?

 着いてから文句言うなよ?」


先生が楽しそうに言う。

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