第57話

騒がしい胸を抑えながら、平常心を迎えにいく。


「涼ちゃんのドスケベ」


いつものように接する。


「ド、ドスケベじゃないって!」


先程よりも更に慌てている先生。

顔はやっぱり赤い。


「無意識に抱き締めちゃっただけだし、不可抗力だろ?」


「じゃあ、寝てる間にあたしの胸を触ったとしても、不可抗力って事だよね?

 寝てるふりをしていても、寝てたって言ったら不可抗力って事だよね?」


「あ、挙げ足をとるなよ!?」


先生の反応が可愛くて、意地悪したくなる。


「ドスケベ相談員の佐藤涼先生か」


「ちょ、そのネーミングはいかがなもんかと思うが!?」


朝から笑いっぱなしだ。

こんなに機嫌が良くて、楽しい朝も初めてだ。

何もかもが初めて尽くしで、本当に新鮮だなあ。


「てか、腕がめっちゃ痺れてる…」


あたしを腕枕していたせいで、痺れてしまったようだ。


「大丈夫?」


「多分…。

 そのまま動かないでくれよ?」


そんな事を言われて、動かない人がいるだろうか。

頭を軽く動かしてみる。


「いぎぃぃぃっ、やめっ、やめて!」


何かの断末魔のような声。

いつもの強気は何処へやら。


「昨日の仕返し。

 あたしの事、散々くすぐったし」


「あ、謝るからっ!」


「ど~しよ~かな~」


意地悪するのって、こんなに楽しいんだな。


「ま、まじで、勘弁して…」


子犬のような顔で、あたしを見つめてくる。

ずるい、それは反則だと思う。


「…もう、解ったよう」


仕方がないから、仕返しは諦める事にする。

先生は安堵し、胸を撫で下ろす。


「……あ、痺れが治まってきた。

 あ~、腕が引きちぎれるかと思ったわ」


ふうっ、と息を吐き出す。


「もうちょい意地悪しておけば良かったな」


「イジメ、格好悪いぞ」


「だって面白いんだもん」


あたしがけらけら笑っていると、先生も笑いだした。

そういえば、ずっと笑いっぱなしだな。

笑いすぎて、そろそろ頬が痛い。


「腹減ったか?

 またコンビニに買い物に行かなきゃなあ」


「寝起きでコンビニとかあり得ないでしょ」


「仕度すんの、めんどいじゃん。

 私が買い物してくるから、白石は留守番してな」


「…一緒に行く。

 ちょっと待って」


ベッドから出ると、顔を洗い、歯を磨くと、先生と一緒に家を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る