第55話

目を覚ますと、そこには先生の寝顔があった。

滅茶苦茶近い。

寝息も聞こえる。


先生があたしを、抱き寄せている形で眠っていたようだ。

細い腕は、しっかりとあたしを抱えている。


誰かの温もりに包まれながら眠るのは、これで2回目。

1回目も先生だ。


この温もりに安心感と、居心地の良さを覚え始めている。

そう、心が落ち着くのだ。

普段感じる事はないであろう安らぎが、溢れているような気がして。


昨夜。

先生の上に乗っかって、くすぐられた仕返しをしたかったのに、まさか先生はくすぐりが効かないなんて。

なかなかどうして、フェアじゃない気がして。

何か仕返しをしたかったのに、結局何も思い付かなかった訳で。


無意識に、先生の頬に触れていた。

そして、髪にも。

男の人のように硬い髪ではなく、やわらかい髪だった。


先生が上半身を起こして、あたしと向き合う形になった。

暗闇の中で、先生があたしを見つめているのが解り、目と目が合った時、胸が高鳴った。

ドキドキが止まらなかった。


先生の手が、あたしの頬に触れると、更にドキドキしてしまって。

ゆっくりと親指であたしの下唇を撫でた時は、ベタな例えだけど、心臓が破裂するんじゃないかと思った程だ。


言葉を発するのも困難な程、あたしの胸はドキドキしていた。

こんな事は初めてだった。


今まで誰かにときめいた事なんてなかったから。

付き合ってきた人にすら、ときめいた事なんてない。


女の人に口唇に触れられたという、甘美な背徳のせいでときめいたのか。

理由はいまいち解らないままだ。


もっと傍に先生を感じてみたくて、両腕を伸ばして先生に抱き付いてみた。

いや、正確には抱き締めてみた。

体と体が密着すると、息が出来なくなるくらい心臓が脈打つ。


先生の頬と、あたしの頬が密着する。

先生の頬は熱かった。


離れてしまいたくなくて。

このままでいたいだなんて。

あたしは一体、どうしてしまったのだろう。


すると、先生もあたしを抱き締めてくれた。

心は限界点を突破しそうな程、どくどくと鼓動を奏でる。

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