第54話

そっと白石を抱き締めてみた。

あの時と変わらず、華奢な体だ。

このまま力を強く入れたら、折れてしまいそうだ。


人の温もりは、心を落ち着かせる作用があると思う。

現に今、私は恥ずかしさも落ち着き始め、平常心に戻りつつある。


白石は人の温もりが恋しいのだろうか。

寂しがり屋だもんな、なおのことかもしれない。


「白石」


自分の声が酷くはっきりと聞こえた。


「そろそろ、寝よう?」


「うん…」


頷きはしたが、腕を解放してくれる事はなかった。


「大丈夫だよ、白石。

 私はちゃんと傍にいるからさ」


白石の頭を撫でる。

さらさらの髪の毛を撫でるのが、好きな事に気付く。


やっと解放されると、白石は私から離れてベッドに横になった。

私も横になる。


「…また腕枕してくれる?」


か細い声で白石は呟いた。

腕を伸ばすと、白石はそっと頭を乗せてきた。

そんな白石の肩を、自分の方へ抱き寄せる。


「寝れそう?」


「うん、大丈夫」


私の胸元に顔を埋めながら、白石は小さく答えた。


誰だって人肌が恋しくなる時はある。

触れ合いたくなる時もある。

その相手が、たまたま私だっただけだ。


そして私も、心の何処かで白石の人肌を感じて、自分の寂しさを拭ったのかもしれない。

ああ、私も大概大人気ないな。

もっとしっかりしなきゃいけないのに。


「おやすみ、白石」


「おやすみなさい」


それから無言が続いたが、暫くすると白石の寝息が聞こえてきた。

疲れていたのだろう。

慣れない事もした訳だし、尚更だろうな。



…さっき胸が高鳴ったのは何でだろう。

ふと疑問符が浮かび上がる。


白石が男ならまだしも、女の子じゃないか。

ましてや年下の女の子。

…私は白石が言うように、本当に変態なのか。

いや、いくらなんでもそんな事はないだろう。


目蓋を閉じる。

白石の先程の声を思い出す。

艶っぽい声が甦る。


胸の辺りがギュッとなった。

一体どうしたというのだろう。

あれか?疲れすぎて、諸々おかしくなっているのか?


駄目だ、もう寝よう。


結局私は、白石を抱き寄せたまま眠りについた。

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