第44話

業者さんを見送ると。


「あのあんちゃん、露骨に肩を落としてたなあ。

 てか、私を使うなよなあ」


先生は苦笑いをしながら言った。


「だって面倒くさいんだもん。

 それにあの人、仲間の人に『胸デカくね?』とか言ってたの聞こえてたし」


「そんなん言ってたんか。

 そいつはよろしくないなあ」


先生が一生懸命片付けをしている時、トラックから荷物を運んでいる時に聞こえてきたのだった。



「あたし、好きな人いますから」


先生はびっくりしていた。

業者さんもびっくりしていた。

口を大きく開けて。

思わず笑いそうになってしまうのを、堪えるのは苦労した。


あたしの番号を聞き出そうとしていた人は、先生の事を男の人と思っていたようだった。

先生は胸も小さいし、背も高くてすらっとしてるから、尚更だろうな。


「あ~、引っ越しも無事に終わった~。

 腹減ったしビール飲みたいし、風呂入りたいしビール飲みたいし、疲れたけどビール飲みたい」


「刻み刻みビール飲みたいアピールしてるし」


先生は鞄から煙草を取り出すと、火をつけながら換気扇の元へ行った。

壁にもたれながら、視線をあたしに向ける。


「今日はありがとな。

 暑かったし疲れただろ?」


確かに暑かったし疲れたけど、それ程苦ではなかった。


「大丈夫だよ」


「今日はゆっくり休むんだぞ。

 あ、腹減ったよな?

 何か食うかあ」


煙草を口に咥えたまま、先生は両腕を上に伸ばす。


「近所のコンビニで弁当でも買うかあ。

 ごめんな、流石に作る元気がないや」


また苦笑いを浮かべる。


汗を流しながら、作業をしている先生は格好良かった。

こっそり見ていたのがバレていないようで一安心だ。


先生が煙草を吸い終わると、コンビニへと向かった。

歩いて10分くらいのところにコンビニがある。


「やっぱ引っ越しだし、蕎麦食った方がいいよな」


「お蕎麦って、ご近所さんに配るんじゃなかったっけ?」


「茹でた蕎麦を配るんだよな。

 いきなり茹でた蕎麦を持って来られてもびっくりするよな」


そう言って、先生は笑った。

あたしもつられて笑ってしまう。

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