第40話

それからふとした時に、白石からメッセージが届くようになった。

絵文字や顔文字は、あまり使わないようだ。

何気ないやり取りを、ぽちぽちする。


『先生、今何してた?』


『読書だよ。』


『どんな本を読むの?』


『基本は漫画かなあ。

 小説も読むよ。

 ミステリーとか、サスペンスとか』


『あたしは漫画しか読まないなあ。

 今度お勧めの本があったら貸して?』


こんな感じ。

至って普通だ。


高校生とメッセージのやり取り。

何だか不思議な感じだ。

里美とメッセージのやり取りをするのとは、ちょっと違うか。


『涼ちゃん、激ヤバッ!

 レアアイテムゲトゥッ!www』


『里美さんや、キャラが変わってまっせ』


『うっほう、まじでテンション上がりまくり!www

 まじ狂喜乱舞、わっしょい!www』


『草生やしすぎだっての』


……里美は大体こんな感じ。

普段生徒の前での里美は、「優しい保健室の先生」を演じているのではないか。

たまにそんな事を思う自分がいる。


夏休みに入り、1週間が経った。

朝から引っ越し業者さんが家に来て、バタバタと騒がしい。

と、そこへ白石がやって来た。


「先生、おはよ~」


私服姿の白石は、更に大人っぽく見える。

あどけなさを残してはいるが、他の生徒と比べると、華やかさがあるというか。


「おはよ、白石。

 早速だけど、手伝ってくれるか?」


「は~い」


本日もご機嫌なご様子で、私の指示に従って動いてくれる。

今年の異常な暑さもあり、白石の額には汗が光っていた。


「白石、これ使いな」


タオルを投げると、見事にキャッチ。

ありがとと短く答えると、汗を拭き始めた。

化粧気のない肌は、汗さえも綺麗に見える。


「暑いから水分ちゃんと摂ってな。

 熱中症になったら大変だしさ」


言いながら、自分自身も汗が酷い。

短パンにTシャツ、頭にはタオルを巻いて作業をしていたが、背中は汗で既にびしょ濡れだった。


「先生、業者さんみたい」


「ちょっとだけ引っ越し屋でバイトした事あるからなあ」


「涼ちゃんは逞しいなあ」


そう言って、白石はけらけら笑った。

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