第39話

「ねえ、いいでしょ?」


押しに弱い私の性格を知ってか知らずか、ぐいぐいと押してくる。

困ったな。


「う~ん」


「1人より2人の方がいいし。

 山口先生は手伝いに来てくれるの?」


里美は8月のイベントに向けて、衣装作りに忙しい。

ので、頼む事は出来なかった。


「いや、来れないけど」


白石は更に微笑む。


「じゃあ、決まりだね」


「お、おい、勝手に決めるなよっ!?」


「…あたしが行ったら迷惑?」


今度は急にしょんぼりした顔になる。

今日は表情がよく変わるなあ。


「め、迷惑じゃないけど…」


「迷惑じゃないなら、手伝いに行きたいな」


白石が真っ直ぐ私を見つめてくる。


「…解ったよ」


根負けしたのは私の方だった。

昔から私は押しに弱すぎる。

頼まれると断れない。

困ったもんだと思っているが、なかなか改善出来ないのが悲しい。


「朝から行くね」


「張り切ってますなあ」


「予定が出来たし~」


「夏休みの予定はないのか?」


「うん、全然ない」


「青春を楽しめよ、若者よ」


部屋のドアが開き、上原が戻ってきた。


「雪ちゃん、ご機嫌だね。

 何かいい事あったの?」


「内緒~」


白石の機嫌がいいのは珍しいようで、上原も驚いているようだ。


「雪ちゃん、アタシそろそろ帰らないとなんだけど…」


「うん、じゃあ帰ろうか」


2人は荷物をまとめ始める。

先にドアに向かったのは上原だった。

続いて白石がドアへ向かう。


「じゃあ、失礼しました」


上原が頭をぺこりと下げる。


「じゃあね、先生」


白石はひらひらと手を振り、ドアを閉めた。


静かになった部屋で、ぼ~っとしていると、私の携帯が鳴った。


『これ、あたしのL◯NEね』


白石からだった。

そういえば、この前白石に電話番号教えたんだっけ。

そこから友達追加をしたのだろう。


『りょ~かい』


友達追加を済ませる。

まさか生徒とLIN◯のやり取りをするなんて。

まあでも、バレなきゃ問題ないか。


引っ越しに白石が手伝いに来る事になってしまった。

力仕事は任せられない。

掃除でもしてもらうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る