第38話

と、誰かの携帯が鳴る。


「あ、ごめんね、ちょっと電話してくる」


スカートのポケットから携帯を取り出し、そのまま部屋を出て行った上原。


「…ねえ、先生」


「ん?」


「この前の看病のお礼がしたいんだけど…」


照れくさそうに、目を伏せながら髪を耳にかける白石。


「別にお礼はいらないよ」


「あんなにお世話になったのに、何もしないのは申し訳ないよ。

 何がいいかな」


「ん~、これと言って欲しいものはないしなあ。

 いや、生徒に貰うもんじゃないしな」


「じゃあ、デートしてあげようか?」


「何でデートなんだよ」


「ほら、今月はお祭りとか、花火大会とかあるし。

 先生彼氏いないし、行く相手がいないだろうからさ」


「彼氏いないのはお互い様だろ。

 てか、友達と行けばいいじゃんよ」


「…希美は部活の友達と一緒に行くんだって」


白石は少し寂しげに呟く。


「一緒に行けばいいじゃん」


「…やだ」


この子は人付き合いが苦手なんかな?


「ん~。

 てか、引っ越しがあるんだよ」


「引っ越し?」


「うん。

 今住んでるところが手狭になってきたから、そろそろ引っ越そうかなあって」


「何処に引っ越すの?」


「今より若干学校に近いところかな」


すると、白石が目を輝かせた。


「じゃあ、看病してくれたお礼に、引っ越し手伝ってあげる」


「え、別にいいよ」


「遠慮しなくていいって。

 ちゃんと手伝ってあげるから」


「いやいやいや、何で急に張り切ってんだよ」


白石がご機嫌になってきた。


「だって、夏休みの予定が出来る訳だし。

 それに先生に会えるじゃない」


「私に?」


「休み中も会いたいもん」


「なしてさ?」


「先生と一緒にいると楽しいから」


そんなん初めて言われたなあ。


「楽しいかなあ?」


「うん、楽しいよ」


白石は微笑みながら言う。

いつもよりも、やわらかい笑顔だ。


「てか、重いもんだって持ったりするし、大変だぞ?」


「業者さんは頼むんでしょ?

 あたしに出来る事するから大丈夫」


おかしいぞ、段々白石のペースに持っていかれているような。

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