第35話

目が覚める。

昨日よりは体が楽だ。

ちゃんと寝て、ご飯も食べて、薬も飲んだからだろうか。


ゆっくりと目蓋を開くと、そこには誰かの体があって。

暖かいその人は、紛れもなく先生だった。

あたしは何で先生に抱き付いて寝ていたのだろう。

てか、先生もあたしを抱き締めてるし。

ちょっと待って、腕枕されて寝てたの?


起きて早々、頭をフル回転させる。

何でこんな状況なのか考えてみるも、当然解る筈もなかった。


先生の顔が近い。

寝息が聞こえる。


こうやって寝るのは初めてだ。

不思議と嫌じゃない。

むしろ、落ち着く。


先生の胸元に、顔を埋めてみる。

男の子とは違う、やわらかい体。


腕を少し動かし、先生の頬っぺたに触ってみる。

当然、髭なんて生えていない。

触り心地のいい肌。


と、先生が目を覚ました。


「おはよ…」


低い声。


「おはよ、先生」


先生はあたしの肩に顔を乗せる。


「白石、寝惚けると抱き付く癖でもあるんか?」


「え?」


そんな癖、あたしは知らない。


「起きたかと思ったら寝惚けてて、いきなり私に抱き付いたかと思ったら、離してくれなくて。

 結局白石の横で寝る事にしたんだ。

 隣に来たら来たで、また抱き付いてきてさ」


「え、あたし、そんな事…」


「白石があったかいから、つられて一緒に寝ちゃったよ。

 あ、今飯作るから、ちょっと待っててな」


前髪をかき上げながら、欠伸をする先生。


「白石さんや、腕をほどいてはくれませんかね?」


先生に抱き付いたままだった。


「…やだ」


「抱き付くなら、イケメンに抱き付きなされ」


「先生もイケメンじゃん」


「私はイケメンじゃないし、男でもないぞ」


くすりと先生は笑う。


「その辺の男の人より、全然イケメンだよ」


「お、白石が褒めてくれた。

 今夜は赤飯だな」


機嫌良さそうに、先生は更に笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る