第25話

「あ、そうだ」


先生が両手に何かを持ってこちらに戻ってきた。

そして、両手をあたしに差し出す。


「帰りに買ってきたんだ。

 どっちがいい?」


右手にはゼリー、左手にはプリンが。

右手を指差してみると、あたしにゼリーと小さなプラスチックのスプーンを渡した。


再びあたしの隣に腰を掛けると、嬉しそうにプリンの蓋を開ける先生。

まるでおやつを楽しみにしている子供のようだ。

あたしも先生にならって、ゼリーの蓋を開ける。


「プリンうま~」


先生は顔を綻ばせながら、プリンを頬張っている。

あたしもゼリーを口に含んでみる。

冷たくて美味しい。


「今日、明日はうちでゆっくりしてきな。

 私も丁度予定ないしさ」


「…先生、口の端っこにプリン付いてるよ」


本当に子供のようだ。

無邪気というか、何と言うか。


「お世話になるの、申し訳ないよ」


「家で1人でいるよりはいいだろ?

 気にしないで大丈夫だからさ。

 子供は何も気にしないで、大人に甘えるもんだよ」


甘える、か。

あたし、甘え方知らないもん。


「甘えさせてくれる大人がいないなら、私や山口先生に甘えればいいさ」


あたしの心を見透かしたように、先生が声を掛ける。


「…先生はどうしてそんなに優しいの?」


「優しいかな?

 普通じゃん?」


「普通の基準は解らないけどさ。

 どうしてあたしを気に掛けてくれるの?」


「困ってる人がいたら、助けるもんだろ?」


「…先生、いつか誰かに騙されて、借金の連帯保証人とかになっちゃいそう」


「そ、そんな事はないぞ!?」


あたしが笑うと、先生も笑った。

こういうやり取り、凄い久し振りな気がする。

希美以外の人と、こうやって接するのは珍しい。


と、玄関のチャイムが鳴った。

先生は立ち上がり、玄関へと向かう。


「白石ちゃん、具合はいかが?」


山口先生がやって来た。


「さっきよりも怠くはないかな。

 ご飯も先生が作ってくれたお粥食べた」


「食欲があるなら安心だわ。

 あ、スポーツドリンク買ってきたよ。

 後で飲みなさいね」

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