第23話

先生があたしの体を支えながら、部屋へといざなう。


「ごめん、ちょっと部屋汚いんだけど…」


苦笑いを浮かべながら、ドアを開けた。


「ここは?」


「私の家」


あらかた予想はしていたけど、まさか本当に先生の家に連れてこられるとは思わなかった。


「お、お邪魔します」


靴を脱いで部屋へと上がる。

シングルのベッド、テレビ、テーブル、パソコン、ゲーム機、タンス。

あとは本棚にはびっしりと本が並べられている。


「白石が着れる服あるかなあ」


言いながら、タンスの中を漁り始める先生。

どうしていいか解らず、その場に立ち尽くしたままのあたし。


「ごめんな、こんなんしかないけど。

 Tシャツ、ちょっとデカいかな。

 白石細いからなあ」


あたしにTシャツとジャージ生地のズボンを渡した。


「それに着替えたら、ベッドで寝てな。

 私は学校に行って、山口先生に車を返してくるからさ。

 あ、何かあったら電話して。

 番号は紙に書いとくからさ」


適当な紙を手に取ると、テーブルに転がっていたボールペンで電話番号を綴った。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


そう言い残すと、先生は部屋を出た。

テーブルに置いた電話番号の書かれた紙を、ブレザーのポケットにしまう。


持ったままだった鞄を床に置くと、受け取った服を見てみる。

メンズのサイズのようだ。

確かに、あたしには少々大きい。


制服を脱いで、服を着てみた。

ブカブカだったけど、我儘は言えない。

ベッドの端に腰掛けてみる。

ほんのりと煙草の香りがする。


駄目だ、頭がぐらぐらしてきた。

また熱が上がってきたようだ。


ベッドに横になる。

寒気はそこまで酷くはなかったけど、布団に体を潜らせた。


まさか先生のベッドで寝る事になるなんて。

なかなかどうして、こんな事になるとは想像出来なかった。


山口先生も、先生も、どうしてこんなに良くしてくれるのか。

どうして、気に掛けてくれるのか。

あたしは到底解らなかった。


独りには慣れてるのに。

けど、優しくしてくれるのは素直に嬉しい。


眠気が漂ってきた。

先生が帰ってくるまで、起きてようと思ったのに。

目蓋が重くなってきた。


自分でも気付かない内に、目蓋を閉じていた。

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