第19話
1人で抱えるなら…か。
無論、あたしも1人で抱えている。
軽々しく話せる話でもない。
あたしの話を聞いたら、誰だってどうしたらいいのか解らず、適当な言葉を並べてその場を切り抜けようとするだろう。
「まあ、こんな不良だけどさ、何かあったら言ってね。
何も出来ないかもだけど、話は聞いてあげられるからさ」
穏やかな笑みで、あたしに言葉を向ける。
お人好しというか、何と言うか。
「あ、もうこんな時間か。
そろそろ帰るよ」
先生が帰る仕度を始める。
「別にまだいても大丈夫だよ?」
「ん?まだ私にいてほしいんか?」
そうだね、1人でいるなら先生が相手をしていてくれた方がいい。
1人でいても退屈なだけ。
『退屈は人を殺せる』
何かの本に書いてあった事を思い出す。
「そういう…つもりじゃないけど」
素直じゃない、素直になれないあたし。
こういう時、素直に甘えられたらどれだけ楽だろう。
けれど、残念ながらあたしは甘え方を知らない。
「また学校で会えるじゃん。
そん時に、また色々話そうな」
立ち上がった先生は、あたしの頭をぽんぽんする。
先生の服から、ほんのりと煙草の香りが漂う。
そういえば、シトラスの香りがしないな。
「先生さ、香水つけてないの?」
「あ、今日はつけてないよ。
つけてくるの忘れたんだ。
もしかして、香水臭い!?」
「いや、いい匂いだなって思ったよ」
「そっか、それなら良かった。
あの匂い、お気に入りなんだ~」
初めて会った時、抱き締められた事を不意に思い出す。
シトラスの香りに包まれながら、抱き締められた事を。
「じゃあ、お茶ありがとな。
いきなりお邪魔してごめんな」
玄関に行き、靴を履いた先生は外に出る。
それに続いて、あたしも外に出た。
「助けてくれて…ありがとう」
「ん、白石が無事で何よりだよ。
変な輩には気を付けるんだぞ。
じゃあ、また学校でな」
あたしに手を振ると、先生は駅の方へと歩き出した。
その背中を、見えなくなるまで見つめていた。
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