第18話

そうだ、灰皿。

キッチンに戻り、灰皿を探す。

確かお父さんが使ってたやつ、ここにしまっておいた筈。

見つかった灰皿を持って、先生の元に戻り、先生に差し出す。


「えっ、吸っていいの?

 ちゃんと我慢出来るから大丈夫だよ?」


「気にしないで。

 どうせ誰も帰ってこないし」


「そっか…。

 じゃあ、灰皿借りるね」


そう言うと、先生は自分の鞄を漁り、煙草とジッポを取り出した。

箱から1本出すと口にくわえ、ジッポで火をつける。


窓を開けると、先生は申し訳なさそうな顔をした。


「臭いよな、ごめん。

 外で吸うよ」


灰皿を持って、外に行こうとした先生を引き止める。


「そんなに気にしなくったって平気だよ。

 煙草の匂いは、お父さんが吸ってたから慣れてるし」


そう言うと、先生は苦笑いを浮かべた。


「一応先生なのに、生徒の前で煙草を吸ってちゃ駄目だよな」


「先生だけど、教師じゃないし。

 どちらかと言うと…チャラ男?」


「チャラ男!?」


「ピアスいっぱい着いてるし、指輪もしてるし、髪も染めてるし」


「え~、それだけでチャラ男扱いは酷くないか?」


先生は楽しそうに笑う。


「チャラ男と言うか不良だね」


「あははっ、チャラ男より不良の方がいいや」


けらけらと笑っている。

よく笑う人だなあ。


でも、さっきの…少しだけ見えた、先生の鋭い目付き。

相手に有無を言わせない、無言の圧力。

こんなににこやかに笑う人なのに、あんな顔をするとは思わなかった。


「ねえ、先生は何で相談員になったの?」


ありきたりな質問すぎただろうか。


「ん~、そうだなあ。

 子供の悩みを聞いてあげたかったというか。

 捌け口になりたかったから、かな。

 誰にも言えないで1人で抱えるなら、私に言って少しでも楽になってくれたらって。

 …自分で言っててあれだけど、何か胡散臭く聞こえるな」


そう言って、先生はまた笑った。

嘘ではないのだろう。

人は誰だって自分の事で手一杯なのに。

先生は優しすぎるんだと思う。

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