第17話

あのまま先生が来なかったら、あたしは間違いなく連れ込まれていた。

また1つ、心に、体に傷を作るところだった…。


「とりあえず、白石が無事で良かった」


少し屈んであたしに視線を合わせると、頭を優しく撫でた。

先生の優しい目が、あたしを見つめている。

そして、その手は温かかった。


「先生」


「ん?」


「助けてくれてありがと」


「どういたしまして。

 また奴が来るかもだし、家まで送るよ。

 こっから近いの?」


「あと15分くらい歩くよ?」


「構わないよ。

 じゃあ、行こうか」


先生と並んで家路を辿る。

何だか変な感じだ。


先生はジャケットのポケットに手を入れたまま、すたすたと歩いている。

歩幅が違う為、追い付くのがやっとだ。


「あ、ごめん。

 歩くの早かったか?」


気付いた先生は、あたしの歩幅に合わせて歩いてくれた。

会話もないまま歩き続け、気付けば家に着いた。


「ここがあたしの家」


ありふれた一軒家。

電気もついていない、ただ帰ってきて寝るだけの家。


「ご両親は?」


「いない」


いる筈もない。


「お仕事忙しいんだ?」


「違う」


そんなんじゃない。


「…良ければお茶でも飲んでく?」


「用もなく生徒の家に上がるのもなあ」


「あたしは気にしないよ。

 ほら、入って?」


鍵を開け、ドアを開ける。

無音が漂っている。

少し息苦しい。


「お、お邪魔します」


「そこのソファにでも座ってて。

 今お茶持ってくるから」


制服のブレザーを脱ぎ、椅子の背もたれにかけた。

鞄は床に放る。


「お、お構い無く」


希美以外の人を家に上げたのはいつぶりだろう。

自分でも珍しい事をしているなと思う。

…まださっきの事で少し動揺していて、1人でいるのが嫌だったのもあるけど。


お盆にお茶の入ったマグカップを乗せ、先生の元へと行った。

マグカップをテーブルに置くと、「いただきます」と言って、先生はすぐに口をつけた。


「喉渇いてたんだ、ありがとな」


「おかわり欲しかったら言ってね」

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