5月/ 切っ掛け

第12話

カチカチ

カチカチ

カチカチカチ


会話の無い室内に、響く音。


カチカチ

カチカチ

カチカチカチカチ


相変わらず無言が続くが。


「あのですね、白石さん。

 君、今授業中じゃないの?」


沈黙を破ったのは私の方だった。


「うん」


特に目を合わせる事なく、淡白な返事をする白石。


「何で相談室でゲームやってんの?」


「先生もやってたじゃん」


「いや、まあ、そうなんだけどさ」


遡る事ほんの少し前。

最初は里美と通信ゲームをやっていた。

が、ゲームを始めてちょっとしてから、白石が相談室にやってきた。


「おはよ、先生」


「おはよ…って、何で来ちゃったんさ!?」


「授業暇だから」


「暇じゃな…あ゛ぁあ~っ!」


私の側に来た白石は、ゲーム機の画面を覗き込む。


「あ、あたしもモ○ハンやってるよ」


「そうかい、そりゃあよかった」


「このモンスターなら、ラ○ス装備の方が楽なのに」


「ちょ、話し掛けん…だぁああっ!

 死んじゃったじゃん!

 クエスト失敗しちゃったじゃん!」


「あたしのせいじゃないも~ん」


白石は椅子に座る。


「ねえ先生、あたしも狩りに行きたい」


「ゲーム機無いじゃん」


「先生の貸して?」


「やだよ、私が出来なくなるじゃん」


「ちょっとだけでいいから。

 ね?お願い」


「…ちょっと待って」


ポケットから携帯を取り出し、里美にメッセを送る。


『白石が相談室襲来』


『あら、またサボり?』


『そうみたい。

 白石が私の使って、狩りに行きたいって』


『あたしは構わないわよ?』


溜息をつき、携帯をポケットにしまい、白石に顔を向け、ゲーム機を白石に差し出す。


「しゃ~ないから貸しちゃる」


「誰かと一緒にクエ行ってたの?」


「…保健医の山口先生」


「え、山口先生ゲームとかするんだ?

 そんな風に見えないから意外」


意外じゃないんだよ。

里美はガチのオタクなんだよ。

ゲームだって、いろんなやつやってるんだ。


里美の家に行ったら、白石は言葉をなくすだろうあ。

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