第11話

先生がこちらに気付く。


「あ、あの時の子…」


来てみたものの、どうしていいか解らず、立ち尽くしていると。


「いらっしゃい」


軽く微笑んで声を掛けてくれた。


「こんにちは」


とりあえず、挨拶をしてみる。


「そこ、座ったら?」


先生が指差した方には、椅子とテーブルがある。

言われるがまま、椅子に座ってみる。

すると、先生は立ち上がり、テーブルを挟んであたしの向かいの席に腰を下ろした。


「あれからちゃんと授業は受けてる?」


「まあ、気が向いたら」


苦笑いを浮かべる先生。


「気が向かなくても受けなさいよ。

 さて、何か相談事かな?」


「相談事…う~ん、特に無いかな」


「なんだ、そりゃ。

 じゃあ、何しに来たのさ」


くすりと先生が笑う。


「先生が気になったから?」


「疑問系かい。

 てか、何で私が気になったんさ」


確かに、何で先生の事が気になったんだろう。


「何でだろね?」


「それは私が聞きたいよ…」


また苦笑いを浮かべている。


「特に何もないなら、部屋閉めたいんだけどな。

 白石さん…だっけ?

 早く帰って友達と遊ぶとか、彼氏と会うとか予定はないの?」


何であたしの名前を知ってるんだろう。


「彼氏は…この前別れたばかり」


「まじでか。

 何で別れちゃったんさ」


「ん~、あたしの欲しいものを持っていなかったから」


「欲しいもの?

 …金とか?」


お金なんていらない。

いや、欲しいけど。

そうじゃなくて。


「そんなんじゃないよ。

 上手く言えないけど…。

 とにかく、欲しいものはなかった」


何かを考えているのか、先生は首を少し傾げたけどすぐに戻した。


「そっか。

 まあでも、白石さんは可愛いから、すぐにいい人見つかるっしょ。

 ほら、帰りが遅くなると家の人も心配するだろうし、早く帰りな」


家の人。

家族があたしの心配なんかする筈がない。


「それはない」


吐き捨てるように答えた。


「え?」


あたしの言い方に驚いたのか、それとも言葉に驚いたのかは解らない。

けど、予想をしていなかった反応だったようで、きょとんとした表情であたしを見た。


無難に笑って誤魔化してみる。

上手く笑えてただろうか。


とりあえず、先生が本当に相談員だったという事が解った。

それだけ解れば十分。

立ち上がり、ドアを目指す。


ドアを開け、そのまま立ち去ろうとしたけど。

軽く振り返り、先生を見る。


「また来てもいい?」


自分でも、どうしてこんな言葉が出たのか解らなかった。


「あ、ああ、いつでもおいで?」


「ありがとう、先生。

 じゃあね」


お礼を言うと、相談室を出た。


新しい場所を見つけた。

暇潰しとは違う。

気紛れでまた来てみよう。


そう、気紛れで。

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