第10話

結局彼氏とは別れた。

やり取りを思い出しても溜息しか出ない。


会おうと五月蝿かったから会ってみた。


「ねえ、付き合って1ヶ月になるし、そろそろ…さ」


そろそろ何だよ。

白々しいなあ。


「雪乃ちゃん、キスもさせてくれないし…。

 俺は…もっと雪乃ちゃんと仲良くなりたいし、仲を深めたいって思ってるんだけど…」


やっぱりね。

所詮こんなもんだ。


「ごめんね。

 別れようよ」


いきなりなあたしの言葉に、彼は目を見開く。


「はあっ?何でっ!?」


「興味なくなっちゃったから。

 じゃあね」


「お、おい、人が下手に出りゃあいい気になりやがって!」


「ごめんね。

 元々最初から興味がなかったの。

 バイバイ」


立ち尽くす彼をそのままに、足早にその場から立ち去った。


よくある恋愛漫画のような恋なんて幻だ。

現実なんてこんなもん。

別に期待なんてしていない。


キスをするのも、体を重ねるのも構わない。

けど、そこに愛が無いのなら話は別だ。

愛されたい。

愛されてみたい。

人の優しさに、温もりに触れてみたい。


あたしはそれらを知らない。

両親の愛情も知らない。


寂しい奴だと思われるかも知れないけど、あたしは知らないのだ。

だから探している。

渇望している。



あたしの心を、

孤独を、

寂しさを埋めてくれる「愛」というものを。



あの日から暫く経った頃。

不意に先生の事が頭に浮かんだ。

相談室に行ってみようか。


「雪ちゃん、あたし部活に行くね~」


「行ってらっしゃい、頑張ってね」


希美に手を振り見送ると、あたしも教室を出た。

窓から射し込む夕陽が眩しい。

1人廊下を歩いていく。


相談室は1階の1番奥の教室だった筈。

3階から階段を下りて、目的地を目指す。

がらんとした廊下。

相談室のドアを、ノックをせずに開けてみる。


いた。

本当に相談員だったんだ。

大きな口を開けながら欠伸してるし。

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