第5話

不思議な出逢いから暫く経った放課後。

今日は誰も相談室には来なかった。


軽く掃除をしてから帰るか。

椅子に座ったまま、両腕を上に伸ばして体を伸ばしていると、欠伸もついてくる。

大きな口を開けて欠伸をしていると、ドアが開いた。

そちらに目をやる。


「あ、あの時の子…」


長い髪はそのままに、こちらをまっすぐ見ている白石雪乃が立っていた。


「いらっしゃい」


とりあえず、声を掛けてみる。


「こんにちは」


透き通った声が耳に心地いい。


「そこ、座ったら?」


椅子を指差すと、素直にそちらに行き、静かに腰を下ろした。

私も立ち上がり、白石の向かいの席に腰を下ろす。


「あれからちゃんと授業は受けてる?」


「まあ、気が向いたら」


「気が向かなくても受けなさいよ。

 さて、何か相談事かな?」


「相談事…う~ん、特に無いかな」


「なんだ、そりゃ。

 じゃあ、何しに来たのさ」


「先生が気になったから?」


「疑問系かい。

 てか、何で私が気になったんさ」


考えるような仕草を見せる。


「何でだろね?」


「それは私が聞きたいよ…」


何だろう。

この子は天然なんだろうか。


「特に何もないなら、部屋閉めたいんだけどな。

 白石さん…だっけ?

 早く帰って友達と遊ぶとか、彼氏と会うとか予定はないの?」


「彼氏は…この前別れたばかり」


「まじか。

 何で別れちゃったんさ」


「ん~、あたしの欲しいものを持っていなかったから」


「欲しいもの?

 …金とか?」


「そんなんじゃないよ。

 上手く言えないけど…。

 とにかく、欲しいものはなかった」


女子高生が欲しがるものって何だろ。

気になるなあ。


「そっか。

 まあでも、白石さんは可愛いから、すぐにいい人見つかるっしょ。

 ほら、帰りが遅くなると家の人も心配するだろうし、早く帰りな」


すると、一瞬悲しそうな、寂しそうな表情を見せた。


「それはない」


冷たく言い放つ。


「え?」


きょとんとした私を見ると、寂しげな笑みを浮かべ、それ以上は何も言わなかった。

彼女は静かに立ち上がり、ドアの方へと向かった。

ドアを開けると軽く振り返る。


「また来てもいい?」


「あ、ああ、いつでもおいで?」


「ありがとう、先生。

 じゃあね」


そのまま、彼女はドアの向こうへ消えていった。


「…何が何だかさっぱり解らん」


私はドアを見つめたまま、独り言のように呟いた。

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