第4話

手を掴み、グッと力を入れて立たせようとしたのだが、勢いが余りすぎてしまった。

バランスを崩した彼女を、咄嗟に抱き止める。

抱き止めるというか、抱き締める形になってしまった。


「あ、ごめん。

 勢いよすぎちゃった。

 大丈夫?」


顔を見上げてくる彼女は、言葉通り綺麗だった。

茶色い瞳が、一点の曇りなく私の瞳を見ている。


「もしもし?大丈夫?」


もう1度声を掛けてみると、我に返ったのか、目を見開いた。

その子は慌てて体を離す。


「大丈夫そうだね。

 とりあえず、次の授業は出なよ?

 じゃあね」


彼女に別れを告げると、そのままその場を去った。


しっかし美少女というか、美人というか、べっぴんさんというか。

随分と大人びた子だったな。

あんな子、いたんだなあ。


自分の持ち場に戻る前に、保健室に寄ってみた。


「里美~、今物凄い美少女というか、美人な子に遭遇した。

 色白で、睫毛長くて、髪長くて、細くて、スラッとした子。

 リボンは3年生の色だったよ」


「あらあら、フラグは立った?」


「立たないよ、立たせてどうすんだよ」


「あら、勿体無い。

 美少女と恋に落ちて、やがて愛にな…」


「ならんから。

 あ、名前聞くの忘れた」


「3年生の美少女……。

 う~ん、白石雪乃かしら。

 確かにあの子は可愛いし、コスさせたら絶対に似合うキャラが盛りだくさん…」


「整った顔だもんなあ。

 あんなに可愛いなら、彼氏の1人や2人いてもおかしくない」


「惚れちゃった?」


「惚れないっての」


咄嗟だけど、抱き締めてしまった話はしないでおこう。

この勢いでは、きっとまた弄れてしまう。


「てか、何であんなところで寝てたんだろ?」


「寝てた?」


「壁にもたれながら、座って寝てたんよ」


「まあ、学校の裏なら人目もつかないからなあ」


「それにしたって、ちと無防備すぎっしょ」


「そんな無防備に寝ている美少女の口唇を奪った、と」


「奪ってないから!」

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