第69話

「ぼくは、本気で蘭丸が好きだったんだ。」

土屋君は、そう何度も言った。


何度目かにそう言われた時、

私は、土屋君に言った。


「ね、元春君、私を見て。」


そして、蘭丸と初めて抱き合った洗面台の鏡の前で、

蘭丸に教えてもらった、美しい表情をした。


目は土屋君を見てるけど、じっと見てるわけではなく、

視野を広く保ち、口角を少し上げ、首の緊張を解いた。


「あ、蘭丸だ!蘭丸の目だ!うわああ。蘭丸!蘭丸!」

と土屋君は、私の肩を抱いて泣いた。

 

しばらく泣いていたが、

抱いた感触が違ったのに気づいたのだろう。


「蘭丸!蘭丸‥。ううう。美々子、美々子。」

と、声が小さくなり、私から離れた。

 

下を向いた土屋君が、また言った。

「ぼくは、ぼくは、

本当に蘭丸が好きだったんだ。」


「知ってたよ。」

「男同士なのにね。」

「ふん。珍しくもないよ。」


「そう?」

「そうだよ。元春君、私も、蘭丸が好きだったよ。」

「双子なのに?」

「うん、兄妹愛じゃなくてね。」


土屋君は私を見た。そして、にやっと笑った。

二人で会うようになって初めての笑いだ。


「ぼくに、分があるね。」と、にやにや笑ってる。

「はぁ?なに、どういう意味よ。」


「道徳的っていうか。いや、違うな。法律的に。」

「なにそれ。」


「いや、ぼくの方が、ていうか、美々子とぼくなら、

法律的にうまくいけば、

蘭丸と結婚できるのは、ぼくだ。

ふふん。ぼくが勝ったね。」

 

土屋君が、ひとりで満足そうに笑っているので、

負けず嫌いに火が付いた。

「何言い出すかと思えば。うひひひひ。」


「なんだ。気持ち悪い笑い方して。」

と、土屋君が私の顔を見る。


心の奥の方で、迷いがあったけど、

私は、土屋君なら、秘密を打ち明けてもいいか、と思った。

 

というか、こんな途方もない話、

でも、土屋君なら信じてくれる、という確信があった。


それで、

「私たちは、本当の双子じゃないのよ。」と言うと、

「まあ、似てなかったからね。」と言う。


あれ、肩透かし?

こんなに一大決心をして打ち明けたのに。

(一大決心じゃなくて、

本当は負けず嫌いからの、勢い、なんだけどね)


「蘭丸は、親類の子じゃない?

それとも美々子のパパの親友の子、とか。

ただ、一緒に暮らすので、美々子にあらぬ噂を立てられないように、

双子って設定をした。」


「はぁぁ。元春、あんた、ドラマの見過ぎ。

本当はもっとすごいのよ。」

「え?教えて。」

 

私は、どうしようかなあって感じで、元春を見た。

「じゃあ、交換条件。」

「なにそれ。」


「秘密を打ち明けるんだから、元春も私に隠さず話して。」

と言って、まじめな顔になり、元春をじっと見た。


「これは、私たちが親友に、

生涯の心の友にならないと打ち明けられないことなの。

どう、私と唯一無二の親友になる自信はある?」


元春も真面目な顔になり、私を見て、そして右手を挙げた。

「誓うよ。蘭丸にかけて誓う。」私はうなずいた。


「じゃあ、教えて。

どうして、ミス3年が苦手なの?」

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