第67話

最後の夜なので、ゆっくりお風呂につかった。


綺麗に洗って、シャンプーもいつもより丁寧にした。

髪を乾かして、パジャマに着替えた。


蘭丸を誘って一緒に映画を見ようかな、と思ったけど、

最後の夜は1人で過ごしたかった。

 

明日からは、もうずっと蘭丸と二人だ。


 

お気に入りの本を持って、ベッドに入った。

緊張して眠れないかなあと思ってたが、

まぶたが重くなって本を持ったまま、眠りに落ちた。

 

その私が持った本を、誰かがそっと手から取り上げる。

ママがよくそうしてくれた。


半分眠っていた私は、ママが帰ってきたのかな、

と思ったけど、まだ目が開かなかった。

 

え?ママ!?ママが帰ってきたら蘭丸が!

と強い思いで目が覚め、私は、

「蘭丸!」と思わず、声を出した。


「しっ!美々子、僕だよ」

 

蘭丸の顔が目の前にあった。

初めて見た時のように。


「あ、蘭丸。あ、そうか、もう朝なのね。」

目の前の美少年がくすっと笑う。


「相変わらず、寝ぼけてるなあ。」

と、蘭丸は笑いながら、私のベッドに入ってきた。

そして私の髪をそっとなでる。


「美々子、大好きだよ。」

と、髪をなでる手を放して、私をゆっくり抱きしめた。


私は半眠りの心地よさで、蘭丸を同じように抱きしめる。


「美々子、寝てる?」

「起きてるよ。」

「ね、僕を見て。」私は目を開けた。



目の前に、絶世の美少年。

 

ああ、本当に綺麗な子だ。

この世のものとは思えないほどの美少年だ。


こんな美しい子を間近で見れて、なんて私は果報者なんだろう。

 

いや見るだけでなく、その身体に触れている。

それに、この美少年も私に触れている。

 

私は、身体だけじゃなく、顔にも触れたくて、頬ずりをした。

蘭丸の柔らかい髪が、私の髪とまじりあう。

ああ、なんて気持ちいんだろう。

 

蘭丸は、私の耳たぶにその唇で、そっと触れた。

 

今まで感じたことのない感覚が私を襲う。

足の先から頭の先まで、電流が駆け抜けたかのよう。

「あ、蘭丸。だめ。」


「美々子。」と蘭丸が耳元でささやく。

私は気絶しそうだった。


「美々子、大好きだよ。」

と、蘭丸がやさしく言った。

 

その言い方が、本当にやさしくて、

エロスに傾きかけていた私は、我に返った。


「蘭丸。私も大好きよ。

清く正しく、大好きだわ。」


蘭丸は、小さな声で面白そうに笑う。

「いいなあ、美々子。ほんとにいい。

美々子に出会えてよかった。」


「私もよ、蘭丸。明日からもよろしく。」

私は、くすっと笑った。

 

蘭丸は、身体を離して、もう一度私の髪をなで、

私の頬を両手で挟み、額に口づけた。

頼りがいのある、やさしい兄のように。

 

明日からはふたりきりだけど、こんなふうに、兄と妹なんだな、

と私は悲しいような嬉しいような気持になった。

 

私も蘭丸の頬に、そっと口づけた。

穢れを知らない妹のように。



次の朝、蘭丸は、姿を消していた。

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