第66話

3人で過ごしながらも、

私は、着々と逃避行の準備をしていた。

 

お小遣いはほとんど使ってないので、結構たまっていたから、

当座の生活費はこれでまかなえる。


スポーツバッグに、下着と着替えとリップクリームを入れた。

本も入れたかったが、重くなるのでやめた。

ネットで行き先や、宿泊先も検索した。


「蘭丸も準備してる?あまり荷物、多くならないようにね。」

「美々子。下着を忘れずに。ぼくは、セクシーな下着を用意したぞ。」

「蘭丸。意味わからないって。」

 


土屋君のことが気がかりだった。

打ち明けたいけど、どう切り出していいかわからない。

黙って行くのも気が咎める。

土屋君は、ショックどころか、半狂乱になる気がする。


「美々子は何も言わないで。

元春には僕が説明するから。」


「元春君、一緒に行くって言い出すんじゃない。」

「大丈夫。ちゃんと伝えるから。

美々子、元春やパパやママだけじゃなく、

ほかの人にも誰にも何も言っちゃだめだよ。岩佐君にもだよ。」


「岩佐君なあ。もう、懐かしい名前だよ。

大丈夫、誰にも言わない。」

「美々子の薄情者。ぼくも捨てられるかも。」


「捨てないよ。

でも、お金が無くなったときに、売り飛ばすから。

蘭丸なら高く売れるね。」



そんなこんなで、明日決行という日になった。


朝早くから、土屋君を呼んで、

3人で思い切りダラダラした日を過ごした。お勉強もなし。

 

蘭丸は、必要以上に土屋君にくっついていた。

最後だからね、と、私も目をつぶってあげたよ。

 

でも、二人のイチャイチャぶりはすさまじく、

土屋君は天にも昇る気持ちだったろう。


私は、二人の様子を撮影しまくった。

お金が無くなったら、これを売ろう。

 


夕ご飯は、土屋君も一緒だった。

はじめて3人でお料理した日のように、カレーライスを作った。


父は、明日母を迎えに行く。

その間に、私と蘭丸委は家を出る予定だった。



夜、土屋君は名残惜しそうに帰っていった。


帰る間際、蘭丸が土屋君を長いこと、

ほんとに長いこと抱きしめた。


土屋君は、わけがわからないまま、

それでも、蘭丸を抱きしめ返した。


「元春。好きだ。大好きだよ。」

 

いつもと違うまじめな言い方だが、

抱きしめられて上気したままの土屋君は、気づかないようだった。


「蘭丸。僕も愛してる。初めて見た日から。」

土屋君が、真っ赤になって言った。

「元春、ぼくもだ。愛してるよ。」

 

その告白をし合ったあと、

二人はキスをするんじゃないかと思った。

 

美少年同士のキス。

 

私はかたずをのんで見守ったが、キスはしなかった。

ちっ。あ、そうか、私がいるからかな、と、

二人にしてあげようと、そっとその場を立ち去った。

 

そのあと、二人が何をしたか、私は、知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る