第58話

総合病院での検査の日になった。


毎日遊んでいるので、すっかり元気だし、

あれから倒れたことも貧血症状になったこともない。

近所のクリニックの血液検査の結果も異状なしだった。

 

でも、せっかく予約もしてくれてるし、

同じ毎日と違う刺激も欲しいので、

病院に行くのが、実はちょっと楽しみでもあった。


「一緒に行こうか。」と蘭丸も、父も言う。

土屋君まで言ってくれた。


「あはは、ひとりで大丈夫だよー。」と笑うと、蘭丸が、

「心配なんだよ。美々子はいつも何かやらかすし。なっ?」

と土屋君に同意を求める。


土屋君も素直にうなずく。

おいおい、私の父さんの前だよ。

父を見ると父も真剣な顔でうなずいている。


「やめてよ。私ほど完璧人間はいないって。」

と、私が言うと、蘭丸が大げさにため息をつく。


「父さんが車で送るよ。父さん、今日はお休みだし。

帰りも電話してきなさい。迎えに行く。」

と、父が言うと、蘭丸も言った。


「美々子、忘れ物しないように。

予約票や保険証もちゃんと持っていくんだよ。

あ、下着はきれいなのを、」


「ちょ、やめてよ。元春君の前で。」


「いや、ぼくもそのことが心配だった。」

と、土屋君が真剣な顔で言う。


「へ?」私は、耳を疑った。

「元春ぅ~~~。きみ、もう、すっかりうちの子ね。」

蘭丸が土屋君を抱きしめる。


父が、

「いいねえ。元春君がうちの子になるってのもいいな。

楽しそうだ。お料理も上手だし。

兄さんになるのかな、弟かな。誕生日はいつだい?」

と言うので、私は言い返した。


「ちょっと、父さん、ふつうは、私のムコでしょう。

息子じゃなしに。」


「え?美々子と結婚してくれるのかい?」

と、父が目を輝かすと、土屋君は、

「息子の方がいいです。」

と即答し、私はむくれ、蘭丸が大笑いした。


 

父が総合病院の玄関まで送ってくれた。


「じゃ、父さんは家に戻るから、終わったら電話するんだよ。」

「わかった。電話する。父さんも気をつけてね。」


「ありがとう。あ、美々子。」

「なに?」

「いや、何でもないんだ。忘れ物はないだろうね。」

「うん、下着も綺麗だよ。」

父さんは笑った。私達は手を振って別れた。


大きな病院なので迷うかな、とちょっと心配だったが、

総合受付があり、予約票を見せると、とても丁寧に案内してくれる。

 

場所はもうすっかりわかったし、時間がちょっとあったので、

さっき、玄関から見えた駐車場に、映画で見たことのある、

たぶんフェラーリ?(なにしろ車音痴なもので、名前と車種が一致しないが、

黄色で派手で素敵だった)が駐車されていたので、見に行くことにした。

 

機嫌よく歩いていると、父の姿を目にした。

え?家に帰ったんじゃなかったの?

 

駐車場にとめた車から、父はゆっくり降りてきた。

生真面目な表情をしていた。


なぜかわからなかったけど、私は生垣に隠れた。

 

父は、病院に向かっていた。

自分がどこに行くのかを確信している足取りだ。


腕時計を見ると、まだ時間はあったので、

私は父の後をつけることにした。

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