第55話

必死で急いだので、公園には5分前に着いたが、

岩佐君はまだ来ておらず、小柄な人影があった。


蘭丸と土屋君は、土屋君の家に入ったはずだ。

自転車を止めて息を整えていると、その小柄な人が近づいてくる。


なんとミス3年だった。

汗が噴き出した。

 

ミス3年は、「微笑みながらも、申し訳なさそうな顔つき」

を完璧に表して、私を見た。


私は汗だくだが、ミス3年は、非常に涼しげでさわやかだ。

 

きちんとアイロンされたコットン100のワンピースと、

素足にサンダル。髪はポニーテールにしている。


絵にかいたような夏の美少女だよ。

 

ううう。何て可愛い。ずっと見ていたい。


ていうか、私も可愛い服に着替えてくればよかった。

岩佐君には、このTシャツとハーフパンツで十分だ、

と思った自分を呪う。

 

ミス3年を見る私の目に称賛を感じ取ったのか、

彼女は、白い歯を見せてそっと笑って、言った。


「川崎さん、ごめんなさい。

私もう帰らなきゃいけないの。」


「はぁ。」残念だ。

私は、(浴用タオルではなく)

可愛いタオルハンカチを出して汗を拭いた。


「応援したかったのよ。

今日、岩佐君があなたにプロポーズするんですってね。」

「へ?」


「みんなと一緒に、冷やかすつもりだったのだけど。」

「み?みんなと、って?」


汗が急激に引いていく。


「土屋先輩たちが、もう少ししたらここに来る

っておっしゃってたわ。

私は、用事があるので先に出たの。」


「いえ、あの、話が違うと思いますよ。

岩佐君はプロポーズなんか。何かの誤解です。

元春君が冗談で言ったんだと思いますよ。」

「まあ、もっちゃんが?」


(もっちゃんて)と、心のツッコミが声に出なくてよかった。


ミス3年は、くすくす笑った。

「冗談だったのね。あら大変。先輩たちよ。」

「え?」と振り向く。


土屋君の玄関から、伝説の土屋姉妹と伝説の美少年コンビが、

にこやかに笑いながら出てくる。

蘭丸がこちらに手を振った。


「ほんと、あなたの双子のお兄さん、美しいわ。

演劇部に来てほしい・・・。」

とミス3年が、蘭丸をうっとり見ている。


ちょっと悔しくなってしまった。

 

でも、それは、蘭丸に対してなのか、ミス3年に対してなのか。

よくわからなかった。


ミス3年は、私に向かって、

「じゃあ、ごめんなさい、もう行くわ。

いずれにせよ。」と、くすっと笑い、


「がんばってね。」と、去り際に、

信じられないほどの華奢な指先で、私の頬に触れた。


私は頭がくらくらした。

思わず、ブランコの鎖をつかんだが、

鎖はぶらぶら揺れる。私もがくがく揺れた。

 

ミス3年はもう行ってしまってたので、

その無様な私の姿は、ミス3年には見られなかったが、


蘭丸が遠慮もなく、大笑いをしながら、公園に入ってきた。

あとの3人も笑ってる。

失礼な奴らだ。


「何しに来たの。帰ってよ。」と蘭丸に言うと、

姉さま(土屋姉妹の姉の方)が、

「公園に来ただけー。」と言いながら、ブランコに座った。


「姉さま~~~。」私は、情けない声を出した。


姉さん(妹の方)が、

「美々子ちゃん、大丈夫。私たちにまかせて。」とにっこりする。


「まかせてって、何をですか?

あの、もうすぐ岩佐先輩きちゃうんですけど。」


「あ、そうね。じゃ、スタンバイ。」

と、すべり台に上っていった。

「へ?スタンバイって?え?なに?」


土屋君が、姉さまの横のブランコに座る。

蘭丸は、公園のシンボルと言える、

大きなクスノキに寄り掛かった。


「元春、こっちの方がいいよ、おいで。」

土屋君が立ち上がって、蘭丸の方に走る。


そしてクスノキを背に寄り掛かり、

蘭丸が、土屋君に「壁ドン」をする。


「いいわ、完璧よ。」と姉さまが言って、

その声が合図のように、岩佐君が自転車でやってきた。



岩佐君は自転車を止めながら、

「これはこれは」とつぶやいた。

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