第54話
しかし、次の日にその体制はもろくも崩れた。
岩佐君から電話があって、
会ってほしいと言われたからだ。
私は、今ちょっと取り込み中なので、
10分後に連絡します、と電話を切った。
「うへー。どうしよう。岩佐君に誘われちゃったよ。」
リビングの床に寝転がって、本を読んでる二人に言った。
朝早くから、土屋君は来ていた。
DVDと、お姉さんたちに、あなたたちが教養として読むのなら、
こちらをお勧めするわと、無理やり渡された本を何冊も持って。
「なに、どうしたの?」
と本から顔を上げた蘭丸が、問う。
「今電話でね、岩佐君が渡したいものがあるからって。
それにお話もあるからって。
どうしよう、婚約指輪かもしれない。」
「へ?」と土屋君が、こちらを見る。
「だから。んー。やっぱりお受けすべきかしら。
公衆の面前で、ひざまずいて、お高い指輪を渡されるのよ。」
「そりゃ、ぼくらも見物に行かねば。」
と土屋君がまじめな顔で言う。
「待って。10分後に電話しますって言っちゃってるの。
どうしたらいい?受けるべき?」
「いや。話わかんないって。
何?会おうって言われたの?」と蘭丸。
「それに、みんなの前でプロポーズするんだって。」
と、土屋君がまじめな顔のまま茶化す。
「あ、じゃあ、僕らも行こう。
ていうか、もう返事したの?」
「え?プロポーズ?」
「時間ないんでしょ。待ち合わせとか決めてる?」
と、土屋君がテキパキ言う。
「違うの。まだ、行くかどうかも決めてない。」
「はい。じゃあ、電話して。
11時に、元春の、土屋君の家の前の公園。ほら、早く。」
「え、どうして、元春君の家の前?」
「だって、ギャラリーは多いほうが面白いよ。
元春、姉さまたちいてるんでしょ。」
「ああ。ミス3年も、午前中に来るって言ってた。」
土屋君が肩をすくめる。
それで土屋君、朝早くからうちに来てたのか。
でもどうして、ミス3年が苦手なんだろう。
あ、もしかしてフラれたとか?
いや、そんなこと考えてる場合違う。
早く決めて電話しなくちゃ。
でも、岩佐君、何の話だろう。
本当は、岩佐君に会うのが、面倒くさくなっていたので、
土屋君の家の前で、みんなが見てるってシチュエーションなら、
面白いだろうな、と思った。
ま、プロポーズされたら、されたときのことだし。
「オッケー。そう言ってくるわ。」
と、私はスマホを持ってリビングを出た。
ふたりは、ここで電話せよ、とも言わなかったし、
後ろからついて来ようともしなかった。
すぐ本に戻る。
岩佐君は、土屋君の家の前の公園を知っていた。
「あの、ブランコとすべり台だけある、
小さい公園だろ。いいよ、じゃ、11時に。」と電話を切った。
まだ時間があったので、私も二人に交じって本を読もうと、
リビングに戻った。
土屋姉さまたちが、持って行けと言った本は、非常に面白かった。
私が手に取ったのは、中国武狭の本で、いきなり手に汗握る展開だ。
蘭丸と土屋君もどんな本かわからないが、夢中で読んでいた。
はっと気づくと、11時15分前だった。
「うわ、美々子ちゃん、15分前だよ。」
最初に気づいてくれたのは、土屋君だった。
「え?やだ。朝ごはんがまだ。」
蘭丸がそれを聞いてあきれる。
「違うぞ。岩佐君だ。
5分で用意できるか。
ええい、もう、その恰好でよいから、
ハンカチだけ持ってくるのだ。」
「了解!でも、お腹すいたー。」
「あとで、僕のところで何か食べたらいいよ。
ぼく、姉さんたちに電話する。」
「元春、お頼み申す。」
蘭丸は、きっと時代劇を読んでいたな。
私も、しゅぱぱぱーっと軽功を駆使して
(私の方は、中国武術の影響である)、部屋に戻り、
可愛いタオルハンカチとスマホをバッグに入れた。
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