第53話

「あら、びっくり。片付いてる。」と蘭丸が驚いている。


どうだ、参ったか。

ママのコートの一件で、私は猛反省して、部屋を掃除したのだった。


ときめかないものを捨てて行ったら、ずいぶん物が減ったのだ。

本と映画のDVDと、教科書参考書以外は、ほとんどいらない。

 

お洋服は、全部ママが買ってくれたので、思い出深いけど、

破れたり、小さくなってしまったものも、

捨てるのが面倒くさかったから、そのままにしてあった。


それらを全部処分したら、すっきり片付いたのだ。

ゴミ袋にいくつになったのかは、秘密。


「うふふ。さ、座って。ってベッドしかないけど。

でも、映画を見ながら、寝ころべるって利点があるよ。」

 

実際、ベッドで横になって見るように、TVが配置してあった。

映画しか見ないので、父に頼み込んで、

大きい画面のを買ってもらっていた。

 

ベッドも、本当は天蓋付きのダブルベッドが欲しかったのだが、

父に笑いながら却下され、

それでも頼み込んでセミダブルの丈夫なのを買ってもらっていた。


上で飛んだり跳ねたりしても壊れそうもないやつ。

って、実際はそんなことしないけど。


「いいねえ。」と土屋君が、感心したように言う。

「ちょっと待ってて。」と蘭丸が出て行って、

クッションや枕をいっぱい持ってきてベッドにばらまく。


「いいねいいね。」土屋君と私は喜び、ベッドに上がった。

あれこれ試して、見やすい体制になる。


蘭丸が、「プリシラ」のDVDをセットした。

そして、私たちの間に入ってきた。

 

結局、蘭丸の両肩に、私と土屋君がもたれる格好になった。


「試写会の時と同じだ。」と土屋君が笑う。

「もう、手を握ったり、重なり合ったり、

は、なしね。映画に集中しましょう。」

と、私は言って、始まった映画の画面を見た。


 

同じ姿勢ではしんどくなるので、私たちは、もぞもぞ動き、

腹ばいになったり、重なり合ったりしながら、

それでも映画に魅せられていた。

 

いい映画は何度見てもいいし、

見るたびに、また違う感動を得る。

 

私は、はっとした。今度「プリシラ」を見るときは、

3人でベッドに転がって見たことを思い出すのだろう。

 

いや、この映画だけでなく、

ほかの映画を一人ベッドで見ているときも、

3人で見ている今の光景が浮かぶに違いない。

 

私は、ふたりをぎゅっと抱きしめたかったが、

映画を楽しんでほしいので、やめた。


その代わり、今この時を、一生忘れないでいよう、と決心した。

 

私が胸の痛くなるような決心をしながら、映画を見終わったとき、

ふたりの美少年もやはり、映画に感動していた。


「夏休み中、毎日こうして上映会したいね。」と土屋君が言った。

蘭丸もうんうんと、うなずいてる。

 

うー。毎日映画を3人で見るのは、絶対楽しいだろうけど、

私の悲壮な決心が薄まっちゃうよ、

と考えて、自分でもおかしくなってしまった。


「美々子、何笑ってるの?」と蘭丸が怪訝そうな顔で私を見る。

「ううん、なんでも。映画の思い出し笑い。」

「あ、ピンポン玉のシーン?」

「ばか、蘭丸のエロじじい、」

そして、また3人で寝転がりながら笑った。


「よし、この夏休みは、映画を見て、本を読んで、教養を深めよう。

今の僕たちにしか感じられないことを、いっぱい感じておくんだ。」

と、蘭丸が言うと、土屋君も


「ぼく、家のDVDあれこれ持ってくるよ。

難解で敬遠してたのもあるから、3人で見て、

色々解釈できれば嬉しいな。」と言った。


私も負けじと言う。

「うん、私もこの綺麗な部屋を維持するようがんばるわ。

なので、そうだ、蘭丸もお料理しなさいよ。」


「ひええ」

「僕も手伝うよ。」と、土屋くん。


「美少年シェフクラブね。裸でエプロンだけつけて。」

「美々子・・・。おっさんが過ぎるよ。」

 

楽しい夏休みになりそうだ。

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