第52話

次の日から、本当に、土屋君は、毎日遊びに来た。


「ごめんね。毎日来て。」

と土屋君は謝る。


いつものごとく、私たちはダイニングテーブルに座っていた。


「全然。謝る必要ないって。

でもおうちの方はいいの?」と聞くと、


「いやほんと、大変なんだよ。姉たちが、大学お休みで

バイトも家庭教師一本だから、ほとんど家でいてるんだ。

それだけじゃなくて、ミス3年も入り浸ってる。」


「ひゃあ。うらやましすぎる。なんてエロい光景だ。」

「美々子、またおっさんになってるよ。」


「蘭丸うるさい。ガキには、美しいお姉さまたちの

輝くようなエロスがわからないのよ。」

「美々子、もういいって。」

 

蘭丸が冷凍庫から、アイスを出して、配ってくれる。

私は遠慮なく受け取ってから言った。

「ありがとう。でも、毎日こうやって、アイスばかり食べてる、ってのも、どうなのよ。

あ、このアイス、元春君が持ってきてくれたんだよね。

ありがとう~~。美味しいですぅ。」


「僕は、こんなダラダラ生活、好きなんだけどね。」

と蘭丸が言うと、土屋君も、

「実は僕も。」

と二人で見つめ合って、にっこりしてる。


「げ。怠惰な美少年が二人、ここにいるよ。

そういえば、ふたりとも部活に入ってないよね。

勧誘とかすごかったんじゃない?」と聞くと、

蘭丸が、偉そうにふんぞり返る。


「ま、運動神経は、僕らふたりとも、抜群だからね。」


「ああ、でも、蘭丸は、退院したばかりだから、

誘われても、絶対入っちゃだめだよ。」

土屋君は、そう言って、蘭丸を心配そうに見た。

 

蘭丸は、恥ずかしそうにするかと思ったのだが

(だって、入院してたってのは真っ赤な嘘だし)、

土屋君を感動の面持ちで見て、


「ああ、元春、やっぱり元春は素敵だ。愛してるよ!」

と、土屋君に投げキスをした。


土屋君は、赤くなるかと思ったのに、

その投げキスを、ちゅっという唇で、平然と受け止めた。


なんなんだ、土屋君のこの変化。

恥じらい美少年はいずこへ。


「あ、じゃあ文化部は?」

「は?演劇部?」

と、蘭丸は耳に手を当てて聞き直す。


「違うよ。もう。ふんだ、ばーか。ほらあるじゃない。

文芸部とか、手芸部とか。園芸部とか。」


「ゲイで、今くくった?美々子ちゃん。」

と土屋君が、アイスのスプーンをくわえたまま、私を見る。


「おっと、スルドい。お二人への、

ちょっとした私のプレゼント。」


「はぁ。この子ったら、おバカなのぉ?

あんた、最近、エロいことしか考えてないんじゃないの?

やだわ、もう。」

と、蘭丸がおねえチックにしゃべる。土屋君が吹き出した。


「あ、そうだ。『プリシラ』見ようよ!」

と蘭丸を見て、急に「プリシラ」が見たくなった。


「お、いいねえ。ナイスチョイス。」

と土屋君が言い、蘭丸もにっこりとうなずく。


「私の部屋にDVDがあるわ。

おいで。散らかってるけど。」


「げ。美々子の部屋か。

元春、見て卒倒しないように。」


私たちは移動した。

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