第51話

私たちは、父の車に乗った。

 

私が助手席で、後ろに蘭丸と土屋君だ。

みんなで、映画の話や、岩佐君のお姉さんの話をする。


「いい人よねえ。」と私が言うと、蘭丸が、

「美々子、あのお姉さんを通して、

岩佐君に惚れ直したんじゃない。」と、意地悪そうに言う。


振り向くと、土屋君も笑ってる。


「ふん。ちょっと、あんたたち、くっつきすぎよ。

少し離れたら。」と言ったら、

二人はますます引っ付いた。


土屋君なんて、腕を蘭丸に絡めている。

うわ、タガが外れたか、元春。

ていうか、なに、その彼女感。

 

さすがに、父がいるので、そこまでだったが、

いなかったら、どうなってることか。


土屋君は、蘭丸の腕にすがりついて、甘い彼女丸出しである。

蘭丸もまんざらではなさそうに、にやけている。

 

私は目からビームを出さんばかりに、

二人の絡み合った腕をにらみつけて、

「ばーか」と言ってから、前を向いた。


後ろで、くすくす笑いが聞こえる。


「もう、遅いから、僕のところで泊っていったら?」

という、蘭丸の甘い声が聞こえた。

 

ひえ。何を言い出すかと思ったら。

「そうだよ、泊っていきなさい、」と父。

うー。父さんまで。


今この興奮状態の、性欲にまみれた美少年たちを

一緒に寝かせたら、成人映画になっちゃうよ。


スマホで隠し撮りしちゃうか。

ていうか、売れるだろうな、それもめちゃ高値で。

うひひ。これ美々子、何を言ってる。


1人心の中でノリツッコミをしてたら、土屋君が、

「ありがとうございます。でも、今日は姉たちが待ってるので。」

とすごく残念そうに、しょげて言った。

 

土屋姉妹、グッジョブ!私は前を向いたまま、

歯をむき出して、声を出さずけけけと笑った。


「美々子、バックミラーに映ってるよ。」と蘭丸の声。

「え?うそ!」


「ばーか。うそだよ。ほんと、美々子ってばかでしょ。」

と、後半は土屋君の耳元で言う。


「蘭丸、くすぐったい」と甘い声が聞こえ、

私は悔しさで身もだえした。


「父さん、こいつら、どうにかしてよ。」と言うと、

父は、少し間を開けてから、口を開いた。


「父さんは、蘭丸に、いいお友達ができて、

本当にうれしいんだ。」


「パパ・・。」と蘭丸が、身を乗り出した。


土屋君も蘭丸から離れ、きちんと座りなおす気配がする。

「土屋君。」

「はい。」


「どうぞ、このまま、蘭丸と仲良くしてやってほしい。

君たちを見てると僕も青春時代に戻ったような気分になる。

たぶん、土屋君のお父上もそうだと思う。


ま、僕は君たちのように美しくはなかったが、

それでも、友情をはぐくんで、ともに笑い、ともに泣いたんだよ。

今でも付き合いがある。

会えば、すぐにあの頃に戻れるんだ。」


私は、同窓会から上機嫌で帰ってきた父を思い出した。

そうか。当たり前だけど、父にも少年の時があり、

青春を過ごしてきたんだ。


車内は、少し厳粛な雰囲気になった。


父は笑った。

「ごめんごめん、ノスタルジック過ぎたよね。

若い人たちに申し訳ない。」


「いいえ。」と土屋君が言う。


「僕と蘭丸君も、このまま、ずっと一緒にいたい、

それは、毎日思っています。」

「元春・・。」蘭丸が、土屋君を見つめる気配。

 

こりゃ、空気変えねば。

「ちょっと、私を忘れないでよ。」


「美々子ぉぉぉ~~」

蘭丸の声がいオクターブ下がる。


「ふん、あんたたちのお熱い友情を見届けるために、

私はいつもそばでいてやる。覚悟しなさいよ。」


「あはは。美々子は、お邪魔虫なのかい。それは気の毒だね。」

と、父が笑う。


土屋君が

「いえ、美々子ちゃんがいるから、

ぼくら、蘭丸と僕は、よけい仲良くできるんです。」

と言うと、蘭丸が


「何て可愛いんだよぉ、元春。

でも、美々子に気を使わなくていいよ。」と言った。


「いや、蘭丸、美々子ちゃんも。ほんとだよ。

僕は、三人でいてる時が、一番、蘭丸と近くなれる気がするんだ。」


「は?何?私って潤滑油?エロの媒介ってわけ?」

 

うわ。思わず言ってしまったが、

父の前だということを忘れていた。


しかし、ちょうど交差点で、右折しようとしているときだったので、

父には聞こえなかったか、聞こえないふりをしてくれた。

うう、美々子、反省じゃ。ていうか、恥ずかしいぞ美々子。



「さ、着いたよ、土屋君。今日はどうもありがとう。」

「いえ、こちらこそ、送ってくださってありがとうございました。」


「明日から、夏休みだね、

蘭丸と、そして、美々子とも遊んでやってくれ。」


「パパ、美々子のことまで頼むと、土屋君に負担だよ。」

ふん、蘭丸、うるさい。


「僕の方こそ、遊んでもらいます。蘭丸、美々子ちゃん、よろしく。」

と、頭を下げる土屋君に、感動しちゃう。

ううう。なんていい子なの。


「元春、あとでラインするよ。じゃあ、おやすみ~~」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 

土屋君は、私たちの車が角を曲がるまで、

見送ってくれていた。


蘭丸のようなあざとさはないけれど、

自然体のその立ち姿も、また美しかった。


少年美にあふれていた。

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