第43話

実は、きのう、土屋君に電話した後、

思い切って岩佐君に電話したのだ。


岩佐君の電話番号を教えてあげたんだから、

と蘭丸は当然のように横で聞き耳を立てていた。


ちょうどそのとき岩佐君は急いでいて、

「ごめん、川崎さんの携帯番号教えてくれる?」と言って、

私はあわててスマホを取り出して、彼に伝えたのだった。

(自分の携帯番号を覚えていないってのもどうなのだが)


蘭丸は、その様子を見ていて、あとで、

「岩佐君の作戦勝ちだな。うん、さすが。」と言った。


「なんで?」

「美々子の番号をさらりと手に入れちゃったじゃない。

ほとんど誰も知らないレアナンバーだよ。」


「う。ほんとだ。どどうしよう、毎日のようにかかってきたら。」

「いや、それはないって。」

「ふん。わかんないわよ。」

などというやり取りがあったのだ。



私は二人をちらっと見ながら、

「はい、川崎です。昨日はすみませんでした。」

と言うと、蘭丸の片眉が、面白そうに上がった。


土屋君は、少し不安そうだ。

電話の向こうの岩佐君が言う。

「なんで?悪かったのは僕だ。急いでたので。」

「はぁ」


「いや、今電話大丈夫?」

「はい」と私は、二人を見て、

(あっちに行って)と口だけで言った。


二人はにやにや笑ってる。


蘭丸は、土屋君の耳に口をつけんばかりにして、

(岩佐君)と耳打ちした。


土屋君は、耳に触れられてちょっと上気してたけど、

私を見てうんうんうなずき、

舌をペロッと横に出し、

ウインクしながら親指をぐっと立てた。


そして、声を出さずに、

(岩佐くぅん)と言って、蘭丸を正面から抱きしめた。


蘭丸も、(美々子ぉ)と言って、

ふたりで抱き合っていやらしい仕草をしている。


こいつら、あとで殺す、と私は凶暴な思いを抱いた。


「どうした?」と岩佐君。

「いえ、なんでもないんです。」

そういえば、これはスマホだ。私が出て行けばいいだけの話。


でも私がリビングを出ても、二人はついてくる。

私は、蘭丸に蹴りを入れたが、すっとよけられる。


殺す、殺すぞ、とにらみつける。

ふたりは、きゃあ怖い~のパロディ演技をした。


「ごめん、取込み中だったかな」

岩佐君は、さすがにこちらの気配を察したようだ。

「違うんです。蘭丸が、」

「あぁ。」

岩佐君の声がワントーン下がった。


「蘭丸と土屋君が、」

「あ、美少年コンビかぁ。」トーンが戻る。


「そうなんです。二人して私をからかって。」

「うぉお。素晴らしいシチュエーションだな。」

「へ?こ、これが!?」


私は二人に歯をむき出した。

いーっだ、っていう可愛いのではなく、猿の威嚇のように。

我ながらすごい顔。


ふたりは、腹を抱えて笑う、の演技をする。

なに、ここってパントマイム学校?


「うーん。素直にうらやましいぞ。」

と岩佐君は言った。

なんだか岩佐君を見直す。


「あ、昨日はすみませんでした。お電話をいただいてたのに。」

「いや。それより蘭丸君から聞いたんだけど、

病院行ったんだって?どうなの?」


「はぁ、全然どうもなかったんですよ。ありがとうございます。」

「そりゃよかった。

あ、僕が電話したのは、実は頼みがあって。」


私のテンションは急に下がった。


蘭丸と土屋君にも伝わったようだ。

二人は動きを止め、私を見ていた。

私も二人を見る。


どさくさにまぎれ、

なんとふたりは、手をつないでいた。


私は、(今度こそうまく)片眉を上げた。

土屋君ははっとして、手を放そうとしたのに、

蘭丸がギュッと強く握る。


土屋君の驚きと喜びが手に取るように分かった。

私は胸が苦しくなる。


「は?なんなんすか。マネージャーなら、」

自分が急激にぶっきらぼうになったのがわかる。

いや、だれが見ても(聞いても)わかるだろう。


「いや、ごめん。川崎さん。違うよ。マネージャーの話じゃない。

あの時は悪かったと思ってるんだ。」

「あ、ごめんなさい。私こそ。」

私は自分を恥じて下を向いた。


顔を上げると蘭丸と土屋君は向こうに去っていくところだった。

手はつないだままだ。


私は岩佐君に申し訳なく思いながらも、

どんどん面倒くささが湧き出てるのを感じた。ふと、

「あ、もしかして演劇部の話なら。」


「へ?演劇部?違うよ、なんでまた・・。

あ、そうか、伝説の土屋姉妹だな。

え?もしかして、演劇部に入部したの?」

「いいえ、違います。」


用事は何なの。さっさと済ませてよ。

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