第27話

結局、蘭丸だけでなく、父にまで説得されて、

土屋君の家に遊びに行くことになった。



大豪邸とまではいかないだろうけど、

土屋君の礼儀正しくおっとりした感じから、

結構大きな家に住んでいるんだろうなと、なんとなく思ってたのだが、

土屋君の家は、ごく普通の2階建ての家だった。


玄関の横にはカーポート。

国産のファミリーカーと3台の自転車が余裕なく並んでいた。



ピンポンを押すと、ドアのそばで待機してたかのように、

土屋君がすぐ顔を出した。

蘭丸を見て目が輝く。あああ。


「蘭丸、待ってたよ~。あ、川崎さんもよくいらっしゃいました。」

自分でも変な挨拶だと思ったのか、

土屋君が私を見て、てへって感じで、肩をすくめて笑った。


いつもの土屋君は、笑顔まで真面目なのに(蘭丸への輝く笑顔以外)、

てへぺろ的な表現をするなんて。


なんなんだろ。

ホームなのでリラックスしているのか。

などと思ってたので、私は挨拶を忘れてしまっていた。


「ほら、美々子。ご挨拶して」と蘭丸が言ったので、無表情のまま、頭を下げる。

いつの間にか、玄関内に通されており、そこには、二人の女性が立っていた。



非常に印象的な女性たちだった。


まずふたりがそっくり同じなのに驚く。

双子のようだ。私と蘭丸も双子(の設定)なのに、私達より、ずっと双子っぽかった。


双子っぽいって言い方もなんだが。とにかくそういう印象を与えるのだ。


よく見ると服装も髪型も違う。

もっとよく見ると顔も違ってる。ふたりの声が似ているからか。


しかも、二人一緒に、「いらっしゃい。良く来てくれたわ」

と同時に言ったので、きっと強い印象を持ったのだろう。


私は、もごもごと挨拶した。

礼儀正しくきちんと挨拶する場面なのに。


でも、蘭丸が、

「厚かましく、また来ました。お姉さまたち、今日も美しい~」

とはしゃいだ声を出したので、私の無愛想はとがめられることなく無視された。


考えてみたら、母の方が、土屋君のお姉さんたちより(ずっと)年上なのに、

蘭丸は目上ぶることなく(ま、目上ぶったら驚かれるだろうけど)、

すっかり年下キャラ、しかも、甘えっ子的?と疑いたくなるような弟キャラなので、

なんだか違和感があった。


やはり、内面より外の身体の方が優先されるってことだろうか。


などと思っていると、双子みたいに一緒に声を合わせていた片割れが口をきいた。


「なに言い出すんだか、蘭丸ちゃん。

あなたに美を褒められても、心がうつろになるだけよ。」


蘭丸ちゃんにもびっくりしたが、

そんな舞台でしか言わないようなセリフっぽいことをごく自然にしゃべったのが、

髪を高く結い上げた赤いTシャツの人だった。


もう一人は、長い髪を下ろしたままで、淡い黄色のTシャツだ。

(どちらが上のお姉さんなのだろう)


「とにかく、上がって」と黄色い方が言った。


蘭丸は、靴の脱ぎ方もスムーズで、

すっと上がって、自然に振り向き、優雅に腰をかがめて自分の靴をそろえる。

動きに躊躇が微塵もなく、美しい。


私は同じ動きをぎくしゃくとして、時間もかかった。

(帰ったら教えてもらおう)と決心する。

面倒くさがりの私であるが、こういうことはスマートに行いたい、と常々思っていた。


土屋姉弟は、先に行ってたので、私のぎくしゃくを見咎められなかったのがありがたかった。


リビングに通された。

いわゆるソファのあるような応接間ではなく、

ダイニングも兼ねた居間で、そのダイニングテーブルに座るよう勧められた。


やはり蘭丸の所作は美しい。

椅子を引いて座る。それだけなのに、なんと絵になるのだろう。


お姉さんたちも(もちろん土屋君も)うっとりと蘭丸の動きを見ていた。

その間に、私はそそくさと席に着いた。


座っている蘭丸は、すっと背筋が伸びている。

骨盤が立っているのだ。


脇の下はぴっちり閉じないで、腕をゆったりと膝にのせている。

膝はきちんと閉じられ、膝からテーブルに手を移動させる時もとても優雅だ。



たぶん、毎日の食事につかわれているのだろうテーブルは、我が家と同じくらいの大きさで、

お揃いの椅子は4脚だったが、どこからか、木製の折り畳みの椅子も備えられていた。


すでに、5人分の紅茶とケーキのセットが並べられていて、

高価な食器ではないが、あか抜けた、感じのいい食器だった。


父が(今回も)用意した手土産がケーキじゃなくてよかった。

日持ちのする和菓子なので、後日ゆっくり食べてもらえるだろう。


皆も席に着いた。折り畳みいすには土屋君が座った。


無作法にならない程度に目を走らせて見まわしたリビングは、

ごちゃごちゃせず、シンプルで清潔だった。


家具がテレビボードだけなので、そう思うのだろう。

大きなテレビとその横にゲーム機。

ボードには、映画のDVDが結構あり、あとでよく見せてもらおうと思った。


テレビボードの前に、丸いラグが敷かれていて、

そこでくつろぐのか、気持ちのよさそうなクッションがいくつかあった。


見まわしている私に、土屋君が、

「何もない部屋だろう。」と笑った。


「掃除しやすそうでいいわ。それに、映画のDVDがたくさんある。」

私は思わず言ってしまった。

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