第20話

ゆっくりと走り出したふたりだったが、

途中からスピードがぐんぐん上がっていく。


うう。男子って、なんでこうも競争意識が露骨なんだろう。


蘭丸は男子なのか、私にはまだ疑問だけど、

無駄に必死で走るふたりを見てる限り、充分男子的だった。


そして、土屋君もちょっと驚くほど、蘭丸は早かった。


蘭丸に合わせて、見守るつもりの穏やかなペースで走り出したのに、

やはり土屋君も男子だった。


相手が美少年であろうと、挑まれた勝負に引き下がることが出来ない。

男子のDNAだ。


土屋君を無視してスピードアップする蘭丸のペースに、

結構マジな顔になって、ついて行き、追い越そうとしていた。


私が必死でペダルをこいでも二人に追いつけないほどだった。


土屋君が蘭丸を追い越した。


すると蘭丸は急にペースを落とした。

ぎゃ。やっぱりママだ。負けず嫌いだもんね。


必死になってる土屋君は、蘭丸を遥か離していることにまだ気づかない。

蘭丸が私を見て、にやっと笑う。私も思わず笑ってしまった。


ママはまだ男子になり切れていない。

いや、なろうとしないのか。

早く走ったのは、土屋君をからかっていたのだろう。

ああもう、土屋君が可哀そうすぎる。



息を切らしながら座り込んだ蘭丸の横に、

自転車を止めて私も座った。


前かごからドリンクを出して蘭丸に渡す。

ごくごく飲みながら、蘭丸は私を横目で見た。


「追い抜かれたから、休んでると思ってるでしょ?」

「うん。」私が答えると、

話し出したのは、蘭丸ではなく、ママだった。



「ま、そうなんだけど。でも、びっくりしたわ。

走るのなんて大嫌いなのに、競争心っての?それがムクムクと湧いてくるのよ。

本来の負けず嫌いの性格じゃなくて、本能みたいなもの。


むやみに優劣つけたがる、男子って生き物をバカにしてたけど、

身体が男子になると、精神もそうなっちゃうのしらね。」


ああ、この話し方は確かにママだ。

私はとても嬉しかった。


でも、蘭丸はどこに行っちゃったんだろうと、

心のどこかで思ってしまった自分に戸惑った。


「うーん。精神はホルモンが支配しているからね。」


「おー美々子も言うねえ。やっぱりなあ。

なんか、身をもって体験しちゃったなあ。」

そう答えたのは、もうママではなく、蘭丸だった。

ママがいたのは一瞬だけだったようだ。


ママが戻ってきたのを私は喜んだのだけど、

でもその一瞬でも蘭丸を恋しいと思ったのも事実だった。


不思議だった。自分でも自分がわからない。


その蘭丸は大きく伸びをした。

しなやかな筋肉は、やはり男子のものだ。


「ね?蘭丸。蘭丸は、男子でもあるけど、美少年でもあるじゃない。」

「ま、そうだね。」

「だったら・・。」と言いかけたら、土屋君が戻ってきた。


「君たち~~~。ぼく、結構遠くまで走っちゃったよ。」

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