第18話

「で、ま、そんな感じなのよ。」


数日後、夕食の席で、父に向って私は、あれこれ報告していた。


「今まで、私に見向きもしなかった人たちが、

蘭丸目当てに媚び媚びなわけ。」


「わかるなあ。」父がにやにやした。

「でも美々子もまんざらじゃないだろう?」

「ま、ね。この前は、ミス3年が話しかけてきたし。

いやもう、びっくりの可愛らしさだよ。肩も細くて、髪の毛ふわふわ」



そうなのだ。以前から、可愛いなあとは思っていたミス3年が、

「川崎さん、でしょ?」と話しかけてきたのだ。

遠くから見ても可愛かったが、近くで見るとより一層可愛い。

きゃあもう、感動。


うちの高校は原則化粧禁止なのだが、

3年ともなるとわからないよう化粧してくる先輩もいた。

ミス3年は、ギリギリ素顔っぽいイメージだった。


すなわち、眉を整えて、まつげをビューラーでカールさせ、

薄色のリップクリームをつけている。


お肌はなめらかで、ニキビ一つない。

髪の色はもともと栗色っぽくて、緩やかにカールして肩に垂らしていた。


背はそんなに高くなくて、私より小さい。

全体的に華奢で小ぶりでほそりしていて、モデルというよりお人形さんだ。


フランス人形の日本人版というか。

とにかくもう嬉しくなるくらいの可愛いらしさなのだ。


話かけられて、私は文字通り飛び上がった。

ミス3年は、そんな私を見てくすくす笑いながら、

「驚かせたかしら。」と言って、その華奢な指でそっと私の腕にふれた。


また飛び上がりそうになるのを必死でこらえた。

天にも昇る気持ちとはこのこと。


たわいもない話だった。

ミス3年は、私が「今話題の」蘭丸の、

双子の妹であることを確かめたかっただけだ、と素直に謝った。


「好奇心だけで話しかけて、気分を害したらごめんなさ・・」

「ぜ、全然!」私はミス3年をさえぎって、叫んでしまったのだ。


今思い出しても、恥ずかしいのと、

でもやっぱり嬉しかったのとで、父の前で私はにやにやしていた。


「ああ、あの子ねー」

いつものように蘭丸が会話に入ってくる。


「彼女、あんな可憐なのに、結構やり手だよ。」

蘭丸がクスクス笑った。私はムッとなった。


「なによ。やり手ってどういう意味なの?」

「なにげに身体に触るのがめちゃくちゃうまい。ありゃ、クロートだ。」


「はぁ?なんじゃ、そのクロートって。」

「強豪蹴散らして、ミス3年と呼ばれるってのも納得ってこと。」


そうだった。

今の3年生は美女が多い。おまけに頭もいい。


わが校には、4月の新学年の最初の1週間で、

ミス・ミスター学年が決まるという妙な伝統があるのだが、

1年はともかく、2年3年ともなると、前学年から、傾向と対策が練られる。


最終的に誰がどう決めるのかが、いまだに謎なのだが、

生徒会が絡んでいるという噂もあるし、

校長権限なんてとんでも話も毎年出てくるそうだ。


それに、ミス・ミスター学年は、正当なものでもない。

誰かをそう呼びだしたら、もうすでに決まってるって感じなのだ。


「蘭丸と土屋君の勝負を見たかったな。」と言ったら、

「そんなの勝負にもならないでしょ。」

と蘭丸がごく普通に言い、父が大きく何度かうなずく。

哀れ土屋君。

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