第14話

3時間目は体育である。


私は蘭丸を引っ張った。

「ちょっと、男子と一緒に着替えるの?」

「大丈夫。体操服はパパが用意してる。」


「いや、そういう問題じゃなくて。」

「うふふ。ぼくは酸いも甘いも噛み分けてるから。」


「何、ワケわかんないこと。」

小声で言い合いをしていると、誰かが話しかけてきた。


「えっと、川崎、いいかな。」

私と蘭丸が同時に振り返った。


土屋君が少し赤い顔をして立っていた。

「ああ、川崎、その、蘭丸君の方。」


「なにかな?」蘭丸がにっこり笑う。

「次、体育だから、着替えの場所教えるよ。

というか、蘭丸君、体育大丈夫?」


さすが学級委員。

蘭丸が(嘘とはいえ)病み上がりであるという先生の紹介をきちんと覚えている。


「ありがとう、土屋君。激しいことさえしなければ、

たいていのことは大丈夫だって医者も言ってるから。」

蘭丸が土屋君に向かってにっこり笑った。


ママったら、マラソンとか苦しいのはしたくないから、

今のうちに手を打ってるんだ。

と思ってる間にふたりは体操着を持って出て行った。



若い男子のナマ着替えを見て、ママは楽しむつもりなのかも。


いや、それより、他の男子がジロジロ蘭丸を見るのでは、

と眉根を寄せていたら、

副委員長の狭間さんがほほ笑みながら声を掛けてきた。


「川崎さん、お兄さんが心配なの?大丈夫よ、土屋君がついてるし。」

「はぁ」


狭間さんはちょっとした美人で、勉強はできるが、気が強く、

私などはその他大勢って感じで十把一絡げにされていて、

掃除怠けないでよ、とか、キツい物言いしかされたことがなかった。


狭間さんは何か言いたそうにしてたけど、

無表情な私を見て、にっこりと作り笑いをしてから、立ち去った。


蘭丸が来たことで、私の周りも変化していくのかもしれない、

という予感がした。

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