第15話
「どうだった学校?」
父が、夕飯の支度をしながらニコニコ聞いてくる。
「すごかったよ、着替え。」
「ママったらもう!違うのよ、父さん。大変だったんだから。」
そう、着替えどころの騒ぎじゃなかったのだ。
体育の時間は、男子も女子もグラウンドだったが、
女子は蘭丸しか見てないし、男子も蘭丸に素直に見とれてる。
体操服姿の蘭丸はまた、神々しいほど美しかった。
白い長袖の体操服に、ネイビーのハーフパンツ。
すらりとした脚には、嫌らしいすね毛などなく、
ふくらはぎの筋肉はしなやかに締まっていて、
誰かが足首を持ってもう一段階引っ張ったように長い。
「今日は転校生もいるから、ラジオ体操の第一第二をやってみよう。
体操隊形に開けーっ」と、叫んだ先生の声は見事に裏返っていた。
蘭丸はすましてはいたが、非常に真面目であった。
ラジオ体操をこんなに真剣にしている人を私は初めて見た。
動きの一つ一つをきちんとこなしている。
ダラダラしたところなど微塵もない。
私もつられて、真面目に取り組んでみることにした。
一つ一つの動きを考えながら行うと、あ、こんなところに効いている。
おぅ、この筋肉が動くんだ、という発見があった。
ラジオ体操は、きっちり行うと、結構キツいってこともよくわかった。
不思議なもので、一人が真面目にし出したら、
連鎖反応で次々真面目になっていく。
ラジオ第二体操など、ちょっとコミカルではないかと思っていたが、
こんなにハードだとは。
皆、息が上がり、顔が上気していた。先生も感動していた。
その後、男女に分かれ、男子はバスケットをしたが、
蘭丸の動きはとても優雅だった。
母はバレエをしていたので、身体能力も高く、
そこに蘭丸の長い手足と若さを得たものだから、
まさに無敵だった。
遠くのコートでハンドボールをしていた女子も、
やめて蘭丸を見ている。遠くから見ても本当に綺麗なのだ。
ボールをドリブルして、敵をかわし、すっとジャンプしてゴール。
動きに無駄がなく、ゴールするときなんて、滞空時間が長いので、
空中で止まっているかのようだ。
2階3階の教室、
窓際でバスケットコートの蘭丸をふと見てしまった生徒が、
目を離せなくなるだろうってのは、もう容易に想像できた。
グラウンドを食い入るように見ているクラスメートに気づき、
他の生徒もなんだろうと窓から外を見る。
そして、次々と蘭丸にくぎ付けになる。
ここでも連鎖反応が起こっていた。
しかも、それを叱りに来た先生まで見とれている。
いつの間にか、窓は鈴なりになっていたのだ。
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