第10話

朝のホームルーム、クラス中、水を打ったように静かになった。


ママ、つまり、蘭丸、つまり、私の双子の兄が紹介されると。


黒板の前に立つ蘭丸を見れば、

確かに口がきけなくなるのも最もだ。


背が高くてほっそりした美少年がそこにいた。


蘭丸という古風な名前のイメージより、

もっと今風の美しい子。


顔が小さくて、あごがとがっていて、目が大きい。


肌はなめらかで、ニキビどころか、毛穴もない。

化粧品会社が喉から手が出るほど欲しがる肌だ。


豊かな黒髪(父さんがため息ついて羨ましがっていた)。


鼻筋は完ぺきで、リップクリームを塗ったような濡れた唇は、

官能的と言うより、ただただ愛らしい。


え?リップクリーム?あ!私のを勝手に使ったのか。

うー、いつの間に。ことわりもなく。

さりげなく図々しい奴だ、蘭丸って。


ふと、この美少年を、ママではなく、

蘭丸としてとらえている自分に驚いた。


今朝の今日なのに。

もう、蘭丸のペースに、まんまとはまってしまってる。


当の蘭丸も、恐るべき美貌でありながら、

そして、女子が自分にほしいと思ってるディテールを

すべて完備しているにもかかわらず、

いわゆる「女の子みたいな男の子」ではなく、

(もとはママだというのに)ちゃんと男の子である。


背が高く、がっしりとはしていないが、

肩幅も結構あり、小さな顔から続く長い首には、のどぼとけもあった。


父がどこかから突然用意した制服は、

あつらえたようにぴったりで、

ネイビーブルーのブレザーに、真っ白なYシャツ。

赤と黄のレジメンタルタイ。


このまま、制服のCMに採用されそうな完璧なビジュアル。

 

クラスの子たちは、息をするのも忘れて、

蘭丸に見入っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る