第100話

もうすぐ花火大会も終わりを迎える。

そろそろ帰り道を急がないと、帰路を急ぐ人達に巻き込まれてしまう。

出来ればこのまま、2人だけの世界に浸っていたいけれど…。


「澪、そろそろ行かないと混むよ」


「うん、そうだね」


先にベンチから立ち上がった美咲は、繋いでいた手を引き上げ、澪を立たせた。

背中に花火の眩しさを受けながら、名残惜しくもゆっくりと歩き出す。


先程より足が重そうな澪が気になる。

どうかしたのだろうか。


「澪、どうした?」


「あ、ちょっと足が痛くて。

 下駄履いてるから仕方ないんだけど…」


灯りの下に行き、澪の足を見てみる。

花緒が当たり、親指と人差し指のところが擦れて軽く出血をしていた。


「うちまで頑張って歩ける?」


「頑張る」


「急がなくていいから、ゆっくり歩いて行こう」


神社を後にし、駅前の方へ歩いて行く。

少しずつ増えていく人達に呑まれぬよう、しっかりと手を繋いで。


不意に空を見上げると、黒い空が一瞬光る。

稲光か…?

このままでは、雨が降るかもしれない。


「澪、今雷が光った。

 雨が降るかもしれない」


「嘘っ!?

 今日は雨の心配はないって天気予報で言ってたのに」


「花火とかを連続してやると、雨雲が発生するって聞いた事がある。

 もしかしたら、それかもしれない」


「困ったな、走れないのに…」


「今すぐには降らないとは思う。

 少しだけ急ごう」


駅前を通り過ぎ、あと少しで美咲の家に着くというところで、ぽつりぽつりと雨が降り出してきた。

雨脚はすぐに強まり、2人を濡らしていく。


なんとかマンションのエントランスに辿り着いたが、服は見事に濡れてしまった。

とにかく、美咲の部屋まで急いで向かう。


家に入った瞬間、更に雨脚が強くなった。

あとほんの少し家に辿り着くのが遅ければ、今頃はずぶ濡れだったに違いない。


「はい、タオル。

 今着替え持ってくるから、脱衣所で着替えた方がいい。

 そのままじゃ、風邪ひいちゃうよ」


「ごめんね、ありがと」


タオルを受け取り、濡れた肌や髪を拭きながら答える澪。


「澪が着れそうな服あったかなあ」


呟きながら、髪を拭きながら、寝室へと向かう美咲。

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