第99話

静寂に包まれてから、ほんの少し後。

ドンと大きな音が聞こえた。

同時に辺りが明るくなる。

顔を上げると、夜空に花が咲いていた。


最初の1発目が上がると、絶え間なく上がる花火達。

赤、青、緑と、色とりどりの花火が空を、2人を染めていく。


「花火、始まったね」


「うん。

 凄い迫力だね」


離れたところから歓声が上がる。


「お待たせ~」


梓達が戻ってきた。


「はい、飲み物。

 一緒に見たいんだけど、僕達はおいとまするよ。

 2人の時間を邪魔しちゃ悪いし」


言いながら、視線を下にやる梓につられ、自分達もそちらを見ると、繋がれていた澪の手と美咲の手。


「あ、いや、これはっ…」


慌てる美咲をよそに、ありさと梓は「じゃあ、またね~」と言いながら去って行った。


繋がれたままの手。

離したくはない。


「あ、あの…。

 こ、このまま手を繋いでてもいい…?」


美咲の問い掛けに、やはり慌てながら答える澪。


「えっ、あ、うんっ!

 ど、どうぞっ」


さっきよりも強く握り合う手と手。

花火よりも手から伝わる体温に気がいってしまう。


2人だけの世界にいるような、そんな感覚。

聞こえてくる歓声が遠ざかるような。


気付いたら、繋いでいた手は絡まり、恋人繋ぎ。

離れぬように、離さぬように。


想いが、気持ちが、花火のように咲き乱れる。

このまま時間が止まればいいなんて、淡すぎる夏の夢の幻。


去年は誰かと花火を見たっけ。

いや、過去なんてどうでもいい。


隣には愛しい人がいる。

同じものを見て、感動し、それを分かち合う。

当たり前な事が、ただ嬉しくて泣きそうになる。


視線を感じてそちらを見ると、澪が自分の顔を見つめていた。


「ん?どした?」


「いや、綺麗だなあって」


「ああ、花火綺麗だよね」


「違う違う、美咲の横顔。

 花火が上がる度にいろんな色に染まって、それが凄く絵になってるなって」


思わぬ言葉に思わず照れる美咲を見て、笑う澪。


「…来年も一緒に見てくれる?」


澪の言葉に対し、美咲はニコッと笑うと、手を繋いでない方の小指を差し出した。


「来年も一緒に見よう。

 約束、ね?」


それを見て澪も同じように小指を差し出し、約束を繋いだ。

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