第101話

「こんなんしかなかった」


Tシャツと短パンを持って戻ってきた美咲から、服を受け取る。

サイズは少し大きそうだ。


「ちょっとぶかぶかかもだけど、我慢してね」


「ありがと…っくしゅんっ」


「あらら、寒い?」


「ん~、ちょっとだけ」


「風呂沸かそうか。

 夏風邪なんてひいたら、夏休みが何割り潰れるか解らないよ?

 遠慮しないで入りな、すぐに沸くからさ」


「…解った、ありがとう。

 じゃあ、お言葉に甘えるね」


暫くすると、風呂が沸いた。

好きな人の家に来て、そのままお風呂に入るなんて…。

変に意識しすぎかな?


そう思いながら、湯船に体を沈めていく澪。

冷えた体が少しずつ温まっていく。


「澪~、バスタオルここに置いておくね~」


不意な美咲の言葉に、思わず大きく反応してしまった。


「あ、うんっ!

 ありがとうっ」


なんだか気恥ずかしい。


30分くらいは入っていただろうか。

体はすっかり温まり、寒さは収まった。

軽く汗ばむ肌を、バスタオルで丁寧に拭いていく。


着替えてリビングに向かうと、美咲はテレビを見ていた。


「ちゃんと温まった?」


「うん、もう寒くないから大丈夫だよ」


言い終えた途端に鳴り響く腹の虫の声。



ぐ~っ。



一瞬の静寂、後の笑い声。


「あははっ、腹減った?

 そうだよね、何も食ってないもんね」


「あ~っ、き、聞かないでっ!」


「もう聞いちゃったもん。

 私もちょうど腹減ってたんだ。

 コンビニでなんか買ってくるよ」


「雨凄いよ?

 傘さしても濡れちゃうよ」


「大丈夫だよ、すぐ近くだし。

 帰ってきたら、私も風呂入るかな。

 とりあえず、ちょっと待っててね」


そう言うと、財布を短パンのポケットに詰め込み、玄関へと向かった。

その後を澪が追いかける。


「気をつけてね」


「ん、大丈夫。

 誰か来ても開けちゃ駄目だよ?」


「解った。

 じゃあ、行ってらっしゃい」


「行ってきます」


なんだか同棲してるみたい。

そう思いながら、美咲を送り出した。

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