第95話

歩きながら話すものの、そちらに視線を移す事が出来ない。


『ヤバい、ヤバい、胸が異常だ、エマージェンシーッ!

 さっきから尋常じゃない脈拍。

 浴衣の威力とはこれ程なのか!?』


頭の中は最早パンク状態で、美咲は気が気じゃない。

久々に澪に会えたというのに、ろくに顔さえ見れないなんて。


「やっぱり人が凄いね。

 何処からこんなに人が集まるんだろ。

 ライブ会場みたいだね」


ケタケタと笑いながら話す澪。

耳をくすぐる澪の声に、うっとりしている自分は一体。


あれか?

「恋はいつでもハリケ~ンッ」か?


「うん、そうだね」


簡単な相槌しか打てないなんて。

いつもの自分は何処に行ってしまったんだ?


「迷子にならないでね?」


悪戯な顔で覗き込んでくる澪。

思わず照れる。


「こっちのセリフ」


会場に近付くにつれて、人も増えてくる訳で。

出店も多い。

鼻を撫でる食べ物の匂い。

しかし、そちらに気を取られると流されてしまう。


「どの辺で見ようか。

 あんまり会場の方に行くと、人が凄いだろうし」


「神社の方から見れたよね。

 そっちで見ようよ」


歩いてる澪がすれ違う人にぶつかりよろけた。

瞬時に澪の肩を抱き止める。

瞬間、香るヴィヴィアンの匂いに酔わされそうになる。


「ごめん、ありがと」


照れ隠しで笑う澪の可愛さに、また高鳴る胸。


「ん、大丈夫」


自分もそれ以上に照れていた。


神社の敷地内にも、出店がたくさん並んでいた。

歩きながら店を見て行く。


「あ、焼きそば美味しそう。

 たこ焼きもいいなあ」


「出店マジックだよね、全部美味そうに見える」


「ね、不思議だよね。

 あ、あそこのたこ焼き屋さん、人がいっぱい並んでるよ。

 あの店で買おうよ」


早歩きで進んでいた澪の足が、急に止まった。

一線を見つめたまま動かない。

追い付いた美咲も、澪が見やるそちらを見ると、1組の男女がいた。

男の方は澪を見ている。


これは、まさか…。

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