第92話

明日はいよいよ花火大会である。

ずっと前から、当日は何を着ようかと悩んでいた。


あのスカートの方がいいだろうか。

ワンピース?

いや、こっちの方が可愛いかな。


卓也との初めてのデートより、ずっと心が弾んでいる。

浮かれすぎだろうか?

いや、でも、この気持ちは絶対止まらない訳で。


タンスの中から引っ張り出した服と睨めっこをしていると、母親が入ってきた。


「あらま、お店屋さんごっこでもしてるの?」


「まあね。

 花火大会に来ていく服選んでんの」


「ふ~ん。

 誰と行くの?」


「……。」


「あ、美咲君?」


「……。」


「図星~っ☆」


「も~、別に誰でもいいっしょ!」


「美咲君と花火デートかあ」


「デ、デートじゃないもん」


「なんでちょっと嬉しそうに照れんのよ。

 美咲君、あたしとデートしてくれないかしら」


「ちょ、なんで貴女が出てくるのさ」


「たまには若い子と遊びたい」


「父が聞いたら泣くぞ、母よ」


「まあまあ、いいじゃない。

 それよりさ、着るものに困ってんなら、手助けしてあげようか?

 ちょっとあたしの部屋においで」


促されるまま自室を後にし、母親の後をついて行く。


「何処にしまったっけかなあ~」


ごそごそとタンスの中を漁り始める。


「香奈ちゃんや、探し物は見つかりそう?」


「お母様とお呼び。

 確かここに…あっ、あったあった」


紙に包まれたそれを取り出す。


「香奈お母様、それはもしかして…」


「あたしが若い時に着てた浴衣~。

 多分あんたなら着れるんじゃない?

 ちょっと着てみなさい」


袖を通し、帯を締めてもらうと、姿見の前に立ってみた。


「うっわ、昔のあたしそっくり」


「そりゃあ、一応貴女様の子供なもんで」


「うん、いいじゃん。

 丈もちょうど良さそうだし」


「これ着て行っていいの?」


「いいよ、着ないと勿体無いし」


「母上グッジョブっ!!!」


「着ていいから、家事ちゃんとやってね」


「ぎょ、御意…」


思わぬ収穫に気持ちが更に躍る。

どんな顔をするだろう、なんてやっぱり浮かれすぎだな。


期待と不安が入り混じる。

でも…確信はないけど、きっと大丈夫。

後悔はしない、絶対に。


久々に会える。

早く会いたいよ、美咲…。

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